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英会話の教え方|実践編② |Listening

「英語を教えてみたい」「英会話を教えてみたい」と思ってみたものの、いざ教えてみようとすると、「どうやって教えたらいいのか」「どんなテキストを使ったらいいのか」迷ってしまう。あるいは、実際に自分の経験を基に英語・英会話を教えてみたものの、「この方法であっているのか不安だ」、「生徒とうまくかみ合わない」などと不安に感じていませんか?

私は留学も長期間の海外生活を送ったこともありませんが、20代前半から英語・英会話を教え始め、その後英会話スクールで、講師トレーナー、教務課責任者、事業部長などを務めながら35年以上にわたり、英語教育に関わってきました。その間に直接教えた生徒は数千人以上、「英会話の教え方」を研修・指導した日本人講師数千人以上、同様に研修・指導した外国人講師数千人以上になります。

これまで私が実際に指導してきた、「英語・英会話の教え方」を簡単にまとめてあります。「英語・英会話の教え方」に関しては、ある「一つだけの正解」はありません。あくまでも、一つの例として参考にしてください

目次

1. レベルの考え方

これから「リスニング」「ダイアログ」「ドリル」など、テキストのそれぞれの部分の教え方は説明していきますが、その前に大切な事を一つ。

それは「レベル設定」の事です。と言っても、「生徒の言語レベル」の話ではありません。「テキストのそれぞれのアクティビティのレベル設定」です。「到達目標」と言った方が分かりやすいかもしれません。

「導入編」でテキストについて説明しましたが、レッスンを実施していく上で、テキストを良く理解する事は非常に大切です。テキストのそれぞれのアクティビティを著者がどのような意図で書いているのか何のためのアクティビティなのか前後のアクティビティとの関連性はどうなのかユニット/チャプター内での位置づけは?、など、まず最初に正確に把握しましょう。

テキストの「序章」「テキストの使い方」などに、必ずヒントがあるはずです。各アクティビティの到達目標がどこにあるのかを理解しましょう。これを理解してレッスンを実施しないと、各アクティビティが難し過ぎたり易し過ぎたりして、著者の意図から大きく外れてしまいますので、注意してください。

各アクティビティのレベル設定は大きく分けて2つです。

  • Receptive Level : 理解できるレベル
  • Productive Level : 使えるレベル

つまり、レッスン中に「生徒が理解できればOK」と言うアクティビティと「使えるようになるまで繰り返し練習する」と言う必要があるアクティビティがあると言いう事です。

テキストによって色々な構成方法があり、多種多様なアクティビティがありますが、それぞれの目的は大体次のように分類できます。

  • 導入:T/Lとなる文型や語彙・表現などを紹介する。
  • 理解:T/Lとなる文型や語彙・表現を理解させる。(文法や語法など)
  • 定着:T/Lが定着するように反復練習する。
  • 実践:T/Lを実践的な設定で練習する。

もし、手元にテキストがあれば、それぞれのアクティビティがこの4つのどれに当てはまるか考えてみてください。

レッスンを実施するうえで講師が理解する必要があることは、この4つのうちの「導入」と「理解」はReceptiveで良い、「定着」と「実践」はProductiveにする必要がある、と言う事です。

これから説明する「リスニング」「ダイアログ」「ドリル」に関しても、ここでは、「リスニング」はReceptive「ダイアログ」はReceptive & Productive、「ドリル」はProductiveと言う前提で説明します。(あくまでも私がこれまで35年以上に渡って実践してきた方法で1例に過ぎません。他の方法や考え方もあると思います。)

2. Listening の教え方

講師の写真

1)テキストの”Listening”パートとは

テキストの中に独立したアクティビティとして、いわゆる「リスニング」の練習をするアクティビティがある場合と、「ダイアログ」など他のアクティビティの1部分として存在する場合があります。ここでは、独立したアクティビティとして「リスニング」がある場合の教え方として説明します。

まず最初に理解する必要がある事が、先程説明した「レベルの考え方」です。一般的に独立した「リスニング」のアクティビティがある場合、その目的は以下の二つになります。

  • リスニングの練習
  • 文型や語彙・表現の導入

いずれの場合でも、「レベル設定」つまりリスニングアクティビティの「到達目標」はReceptiveになります。以前私が講師トレーナーとして各校の講師のレッスンをオブザーブしていた頃、この「到達目標」を勘違いしている講師が多くいました。詳しくは後程、例として説明しますが、リスニングの到達目標はProductiveにしてしまっていたので、50分レッスンのうち40分くらいリスニングに使ってしまい、何のレッスンなのか良く分からない事がありました。

と言う事で、ここでは「到達目標」をReceptiveに設定します。

また、リスニングの練習方法として次の二つに方法があります。

  • トップダウンリスニング
  • ボトムアップリスニング

「トップダウンリスニング」とは、「概要を把握する」「必要な情報を得る」と言う聞き方です。一般的に日常生活で行っているのはこの聞き方だと思います。

「ボトムアップリスニング」とは、一字一句聞き取る聞き方、所謂ディクテーションするような聞き方になります。

恐らく日常生活では「トップダウンリスニング」を中心に行い、必要に応じて「ボトムアップリスニング」をする、と言うように無意識のうちに自然と使い分けているのだと思います。

リスニングの力を伸ばしていく上では両方とも大切な練習方法になります。一般的に初心者のうちは「トップダウンリスニング」を中心に練習していった方が良いようです。と言うのも、初心者の場合どうしても一字一句聞き取ろうとしてしまいます。その結果、知らない単語が出てきて一つ聞き取れないと全て分からなくなってしまう事が良くあります。初心者にとって「知っている単語と文型だけ」で聞き取れる状況はほぼ無いと思いますのであまり現実的ではありません。実際に日常生活で広く使われているのは「トップダウンリスニング」なので、多少分からない箇所があっても「概要を掴む」「必要な情報だけ聞き取る」と言う練習をした方が効果的です。

反対に中級者には「ボトムアップリスニング」の要素は強化した方が良いようです。と言うのも、中級者は「何となく雰囲気で理解する」という癖がついてしまっていることが多いからです。そのため相手の意図を正確に理解できずに誤解してしまう可能性が高いので「細部まで注意」して聞き取る練習をする必要があります。

いずれにしても、テキストの著者の意図をしっかりと理解して、これからレッスンで教えるリスニングのアクティビティ「トップダウンリスニング」なのか「ボトムアップリスニング」なのかをよく理解した上でレッスンの準備を進めましょう。

2)Listening パートの教え方

ではテキストを使用してリスニングをする場合の進め方を説明します。次の流れのように進めていきます。(各ステップの呼び方は恐らくスクール毎に異なると思いますが、だいたいどこの語学スクールでも同様の流れで進めていると思います。)

  • Pre-listening
  • While-listening
  • Post-listening

要するに、①CD/音声ファイル/Videoなどを流す前②流している間③流した後、と言う事です。それぞれのパートの進め方を説明します。

① Pre-Listening

Pre-Listeningとは、①CD/音声ファイル/Videoなどを流す前に行うことです。以下の3つを行います。

  • Set up   :状況設定
  • Vocabulary :語彙の確認
  • Task       :タスクの確認

それでは一つずつ見ていきます。

① Set up

まず最初に、場面の確認をします。通常英会話のテキストでは、リスニングのアクティビティも会話形式になっている物が多いと思います。「誰と誰が」「どこで」「何を」話しているのかを、音声を聞かせる前に理解させます。

テキストには、イラスト写真がある場合が多いと思うので、出来るだけVisual Aidsを使いましょう。テキストに何もない場合は、ホワイトボードに簡単な図を描くだけでも大丈夫です。

テキストには、イラスト写真がある場合が多いと思うので、出来るだけVisual Aidsを使いましょう。テキストに何もない場合は、ホワイトボードに簡単な図を描くだけでも大丈夫です。

この場合の注意点ですが、以下になります。

  • 説明しない
講師の写真

リスニングに限らず、レッスンの全ての箇所で講師は基本的に説明しないようにしましょう。「講師が一方的に説明して、生徒が聞く」と言う形式は限りなく排除していきます。必ず「講師が質問して生徒が答える」と言う形を取りましょう。理由は簡単です。

  • 「講師が一方的に説明して、生徒が聞く」= 講師 100% vs 生徒 0%
  • 「講師が質問して生徒が答える」= 講師 50% vs 生徒 50%

単純に生徒中心にしていくためです。Direct Methodを使用する一番の目的は生徒にターゲットとなる言語を話させることです。「英語で聞いて英語で話す」と言う事を、どんなにシンプルなやり取りでも繰り返し実践していきます。その積み重ねで英語でのコミュニケーション力が向上します。また、講師が一方的に説明すると生徒の集中力も落ちてしまいます。

例えば、講師が一方的に説明すると以下のようになります。(クラスルームイングリッシュの原則通り、英語はシンプルにしてあります)

講師

This is Taylor and this is Ed. They are watching TV in the living room. 

生徒

………

これだと講師が一方的に説明してしまっているので、以下のように質問形式で進めます。テキストのイラストを指しながら質問します。

  • T : Look at the picture. Who is she?
  • S: Taylor
  • T: Who is he?
  • S: Ed
  • T: Where are they?
  • S: Living room
  • T : What are they doing?
  • S: (Watching) TV

講師が説明するのと質問形式で進める方法の違いがわかりましたか?

英語を教えたことのない人にはもうひとつピンとこないかもしれません。実際にレッスンを教えてみるとこの両者には大きな違いがあります。生徒の反応の仕方が違い、半年後、1年後には大きな差が出てきます。

また、「生徒は単語で答えているだけじゃないか? フルセンテンスで答えさせなくても良いのか?」と思うかもしれません。これが先程説明した「レベルの考え方」「到達目標」の事です。

リスニングはReceptiveなアクティビティです。そしてこのSet upリスニングの準備のためのものです。Productiveにする必要はありません。また、初心者に英語を教える場合、即答力を最優先させます。初心者の傾向として、「頭の中で一生懸命英作文」するケースが多く見られます。実際のコミュニケーションでは15秒かけて正確なフルセンテンスで答えるよりも、1-2秒で単語で答えた方が遥かに有効です。実際の皆さんの日常会話でもフルセンテンスで話している部分の方が少ないかもしれません。なので、単語で構わないの即答させます。

② Vocabulary

リスニングアクティビティには必ずタスクがあります。そのタスクをこなすために必要なVocabularyを確認します。生徒が必要な単語をしらなければ、この段階で「教えます」。また疑問を感じたかもしれません。「事前に単語を教えてしまって良いのか? タスクをする意味が無くなるのではないか?」

研修中もこのような質問をする研修生が多くいました。レッスンでリスニングをする目的は、「リスニング能力を試すテスト」ではありません。あくまでも①リスニングの練習、であり、②文型や語彙・表現の導入です。タスクをするのにあたりVocabularyが必要な要素であれば、この段階で、つまり音声を聞く前にVocabularyの確認をし与えておきます。この場合の注意点も先程と同じです。

  • 説明しない

理由は先程と同じです。とにかく、会話のレッスンでは、「講師は説明しない」と言う事を覚えておいてください。

実際のレッスンでは①のset upからの流れの中で進めます。

まず、講師が一方的に説明する悪い例から、

講師

This is Taylor and this is Ed. They are watching TV in the living room. They are talking about this weekend. Taylor wants to go to the movies. She wants to see a Sci-fi movie.

生徒

………

続いて質問形式の場合です。①のset upからの流れの中で進めます。

  • T : Look at the picture. Who is she?
  • S: Taylor
  • T: Who is he?
  • S: Ed
  • T: Where are they?
  • S: Living room
  • T : What are they doing?
  • S: (Watching) TV
  • T: What’s this?
  • S: (Movie) theater.
  • T: What kind of movies do you like?
  • S: ………
  • T: Action, Comedy, Romance?
  • S: Action.
  • T: I like “Star Wars”. What kind of movie is it? Do you know?
  • S: No.
  • T: It’s called Sci-fi.

——— ここでホワイトボードに Star Wars : Sci-fi と書きます———-

分かりやすくするために、T(講師)のパートは質問のみ書きましたが、実際にはしっかりとリアクションを取っていきます。

リアクションについて忘れてしまっていたら、「Classroom English」の記事を復習してください。

③ タスクの確認

リスニングには必ず何かしらのタスクがあります。よほどタスクが分かりにくい場合を除いては、テキストにある質問/タスクをそのまま読んで確認すれば大丈夫です。

時々、「とりあえず1回聞かせる」と言う事をする講師がいますが、必要ありません。意味なく聞かせる事は意味ありません。必ず目的を持って聞かせてください。タスクが無いと生徒は「何となく聞いて」しまいます。集中して聞きません。

リスニングの中では、このPre-listeningの段階が非常に大切です。Pre-listeningが上手く出来ればリスニングは上手く教えられます。反対に、Pre-listeningが上手く出来ないと生徒は混乱し、自信を失ってしまいます。生徒に成功体験を与えられるように、しっかりとしたpre-listeningを行いましょう。

② While-Listening

Pre-listeningがしっかりとできたら、いよいよ音声を流します。ここでの講師の役割は、生徒の出来具合を確認する事です。生徒の表情や手の動き(テキストに書き込みするようなタスクであれば)を注意して見ていきます。

Post-listeningでタスクの答えチェックをしますので、どの生徒が出来ていてどの生徒が分かっていないのか(グループレッスンの場合)を、この段階で把握しています。当然ですが、答えが合っていない生徒を指名する事はありません。

時々、この時間を休憩時間のように考えている講師がいますが、しっかりとモニターするようにしてください。

③ Post-Listening

CDやビデオなど音声を流した後になります。ここでは以下の2点を行います。

  • タスクのチェック
  • 補足・おまけ
① タスクのチェック

Pre-listeningタスクを与えていますので、答えのチェックをします。いわゆる答え合わせですが、特に決まった方法はありません。全員に一斉に答えてもらう答えが合っている生徒を指名する、などです。答えが違っている生徒を指名しない限りどんな方法でも構いません

ほぼ全員正解なら問題ないのですが、過半数が出来ないようであれば、もう一度音声を流す必要があります。この場合はPre-listeningが完全に失敗していますので、必ず正解が出るように再度Vocabularyや状況の確認を行います。

もし、While-listeningの段階で、過半数が分かって無さそうな印象であれば、その場で音声を止めてしまっても構いません。再度しっかりとVocabularyや状況の確認をしてください。

タスクの答え合わせをする時に、ペアワークをさせる講師がいます。これはどちらでも構いません。ペアで答え合わせをさせる場合は、必ずホワイトボードに答え合わせの方法を書く必要があります。

  • A: What is your answer for question #1?
  • B: I think it is ______.

これを指定しないと、生徒が日本語で話し始めます。

② 補足/おまけ

特に問題なく1回目で全員正解だったら、(と言うか、全員正解に出来ないと駄目です)少し雑談します。

英会話のレッスンで大切な事は、レッスンが終わった段階で生徒に「たくさん話せた」「通じた」と実感してもらう事です。ところどころに「話した実感」を得られる要素を入れていきます。これを入れられないと「○○先生のレッスンはテキストやっているだけでつまらない」みたいな苦情が入ります。

当然ながら、リスニングの内容に合わせて話をしていきます。この場合は映画/テレビですね。時間にするとほんの1⁻2分の事ですが、非常に大切です。生徒はセンテンスで話す必要ありませんし、講師が生徒の間違いを直す必要もありません。ただし、しっかりとリアクションを取ってください

リアクションの基本をもう一度復習します。

  • ほめる
  • 驚く
  • 同意する
  • 少し自分の事を話す

です。

例えば、先程の例だと、

講師

Do you like movies?

生徒

Yes

講師

Great! What kind of movies do you like?

生徒

Action.

講師

Really? Excellent! I love Action movies! When did you last go to the movies?

生徒

Last weekend.

グループレッスンの場合、適当な所で”How about you?”と他の生徒に振ったり”Please ask him.”と言って生徒に質問させ講師はリアクションだけ取っていきます。

ただし、あまり長引かせないように上手くコントロールして次のアクティビティに進んでください。

3)まとめ

テキストにListeningパートがある場合の教え方を説明してきました。

まず最初にテキストをよく研究し、そのListeningパートの「目的」や「位置付け」を確認しましょう。色々なタイプのテキストがありますが、基本的には、Listeningパートは「Receptiveなアクティビティー」になります。

そしてListeningパートは以下の流れで進めます。

  • Pre-listening
  • While-listening
  • Post-listening

この3つの中では、Pre-Listeningが最も大切になります。Listeningパートは、聞き取り能力を試すテストではありません。①Listening力を向上させる、②新しい文型や表現を導入する、という事が目的です。生徒が成功体験を得られるように、Pre-Listeningの段階でしっかりと準備をします。

  • Set up   :状況設定
  • Vocabulary :語彙の確認
  • Task       :タスクの確認

この流れで進めていくのですが、講師が一方的に説明しないように気をつけてください。必ず質問形式で進めます。

  • 「講師が一方的に説明して、生徒が聞く」= 講師 100% vs 生徒 0%
  • 「講師が質問して生徒が答える」= 講師 50% vs 生徒 50%

しつこいようですが、もう一度繰り返します。

  • 説明しない
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