🧐 はじめに:時制ミスをゼロにする最終ステップへ
第1回で基本構造を、第2回で仮定法と間接話法の応用を学んだことで、あなたは過去完了形の高度な役割を理解しました。
しかし、この時制の習得における最後の、そして最大の課題が残っています。それが、過去形との混同、そして時間表現を伴う複雑な時制の正確な使用です。
多くの日本人学習者が、時系列が複雑な文を作成する際、「過去形と過去完了形のどちらを使うべきか」という選択で迷ってしまいます。この迷いが、英文の不正確さや、自信の喪失につながってしまうのです。
この第3回では、その迷いを完全に断ち切り、過去完了形をマスターしたという確かな自信を手に入れていただきます。
✅ 完全な使い分け:過去形と過去完了形の本質的な違いを明確にし、時制選択の判定フローチャートを提供。
✅ 時間表現の極意:「by the time」「before」「after」といった重要表現と過去完了形の正確な組み合わせ方を習得。
この記事を読み終えることで、過去完了形に関するすべての疑問が解消され、あなたは過去の出来事を論理的に、そして正確に伝えるスキルを完全に手に入れることができます。さあ、時制の総仕上げを始めましょう。
時間表現との組み合わせ:「by the time」「before」「after」

過去完了形は、特定の時間表現と組み合わせることで、その力を最大限に発揮します。ここでは、3つの重要な時間表現との組み合わせ方を、タイムラインと共に詳しく解説します。
「by the time」との組み合わせ
「by the time」の意味:「〜までに」「〜する時までに」
この表現は、「ある時点に到達するまでに」という時間的な区切りを示します。
基本的な使用パターン
By the time + 過去形, 主語 + had + 過去分詞 + …
代表例:会議準備
By the time the meeting started, he had prepared all documents.
(会議が始まるまでに、彼は全ての書類を準備していた)
タイムライン分析:
過去 過去 現在
●────────●
書類準備 会議開始
(had prepared) (started)
時間軸の理解:
- 「会議が始まった」という時点が「基準点」
- その基準点に「到達するまでに」、書類の準備は既に完了していた
- 「会議開始」という時点で、準備状態が整っていたことを強調
その他の「by the time」の例
By the time she finished high school, she had decided to study abroad.
(高校を卒業するまでに、彼女は留学することを決めていた)
意味: 卒業という「区切りの時点」までに、留学の決定が既に下されていた
By the time I arrived at the station, the train had already left.
(駅に到着するまでに、電車はもう出発していた)
意味: 駅到着という時点で、既に電車は去ってしまっていた
「before」との組み合わせ
「before」の意味:「〜する前に」
この表現は、「ある出来事が起こる前に」という時間的な順序を明示します。
基本的な使用パターン
主語 + had + 過去分詞 + before + 過去形の文
または
Before + 過去形の文, 主語 + had + 過去分詞
代表例:食事を済ませていた
She had already eaten before I cooked dinner.
(私が夕食を作る前、彼女はすでに食べていた)
タイムライン分析:
過去 過去 現在
●────────●
彼女が食事 私が夕食調理
(had eaten) (cooked)
時間軸の理解:
- 「夕食を作る」という出来事が基準点
- その基準点「前に」、彼女の食事は既に完了していた
- 時系列上で「食事」→「調理」という順序が完全に明確
その他の「before」の例
Before he arrived, we had already finished the meeting.
(彼が到着する前に、私たちは既に会議を終えていた)
意味: 彼の到着という出来事より「前」に、会議終了は完了
I had never traveled abroad before I met her.
(彼女に会う前に、私は海外旅行をしたことがなかった)
意味: 彼女との出会いという時点「前」の、私の経験状況
「before」の強力な側面
「before」を使うことで、時系列が絶対的に明確になります。
曖昧な表現:
I ate lunch. She arrived.
(昼食を食べた。彼女が到着した)
→ どちらが先か不明確
明確な表現:
I had eaten lunch before she arrived.
(彼女が到着する前に、昼食を食べ終えていた)
→ 順序が完全に明確
「after」との組み合わせ
「after」の意味:「〜した後で」
この表現は、「ある出来事の後に」という時間的な順序を示します。
注意: 「after」の場合は「過去完了形が必須」ではないケースが多いです。
基本的な使用パターン
After + 過去完了形, 主語 + 過去形 + …
または
主語 + 過去形 + after + 過去完了形の文
代表例:卒業後に引っ越した
After he had graduated, he moved to Tokyo.
(卒業した後、彼は東京に引っ越した)
タイムライン分析:
過去 過去 現在
●────────●
卒業 東京に引越
(had graduated) (moved)
時間軸の理解:
- 「東京に引っ越した」という出来事が基準点
- その基準点「前」に、卒業という出来事が起こった
- 結果として「卒業」→「引越」という時系列が明確
その他の「after」の例
After she had finished her studies, she started working as a doctor.
(勉強を終えた後、彼女は医者として働き始めた)
意味: 勉強完了 → 医者としての職務開始
After I had eaten breakfast, I went for a walk.
(朝食を食べた後、散歩に出かけた)
意味: 朝食完了 → 散歩 という明確な順序
「after」では過去完了形が任意である理由
実は、「after」を使う場合、時系列が「after」という単語自体で明確になるため、過去完了形を使わなくても理解できます。
可能な表現1:
After he graduated, he moved to Tokyo.
(卒業した後、東京に引っ越した)
→ 「after」で順序は明確なため、過去形だけでもOK
より正確な表現2:
After he had graduated, he moved to Tokyo.
(卒業した後、東京に引っ越した)
→ 過去完了形を使ってさらに時系列を明確化(よりフォーマル)
判断基準:
- 会話や日常的な英語 → 過去形だけで十分
- フォーマルな文章やビジネス英語 → 過去完了形を使用
時間表現との組み合わせの比較表
| 時間表現 | 意味 | 基本構造 | 例 |
|---|---|---|---|
| by the time | 〜までに | By the time + 過去形, had + 過去分詞 | By the time he arrived, I had finished. |
| before | 〜する前に | had + 過去分詞 + before + 過去形 | I had eaten before she came. |
| after | 〜した後で | after + had + 過去分詞, 過去形 | After he had graduated, he moved. |
過去形と過去完了形の完全な使い分け

これは、Lesson 3全体で最も重要なセクションです。過去形と過去完了形の「本質的な違い」を完全に理解することで、実践的な英語使用における「時制選択の精度」が劇的に向上します。
基本原則:「単独」vs「相対的」
過去形:「過去の一点の出来事」を単独で述べる
→ 他の出来事との時間関係は明示されない
過去完了形:「過去の基準点」より前の出来事を述べる
→ 複数の過去の出来事の「相対的な時間関係」を明示
比較例文1:単純な対比
過去形のみを使った場合
I ate lunch. She arrived.
(昼食を食べた。彼女が到着した。)
タイムライン:
過去 過去 現在
●────────●
ate lunch / she arrived/
she arrived. ate lunch
問題点:
- 2つの出来事が同時に起こったのか?
- 昼食が先だったのか、到着が先だったのか?
- 順序が完全に不明確
過去完了形を使った場合
I had eaten lunch before she arrived.
(彼女が到着する前に、昼食を食べ終えていた。)
タイムライン:
過去 過去 現在
●────────●
had eaten she arrived
lunch
明確さ:
- 「到着」という基準点より「前」に「昼食完了」が起こった
- 時系列が絶対的に明確
- 「昼食」→「到着」という順序がはっきり伝わる
比較例文2:理解の誤解を招く場面
曖昧な表現(過去形のみ)
When I called him, he left the office.
(電話したとき、彼はオフィスを出た)
解釈の多様性:
- 「電話したから、彼がオフィスを出たのか?」(因果関係の暗示)
- 「電話と同時に出たのか?」(同時性の暗示)
- 実は「既に出ていたのか?」(不明確)
明確な表現(過去完了形)
When I called him, he had already left the office.
(電話したとき、彼はすでにオフィスを出ていた)
明確な理解:
- 電話時点で「既に退社していた」という状態
- 誤解の余地がない
- 「電話」という時点での状況が完全に明確
比較例文3:経験の順序が重要な場合
曖昧な表現
She didn’t know about the accident because she watched the news.
(彼女はニュースを見たから事故を知らなかった)
問題点:
- 論理的に矛盾している(ニュースを見たら知るはず)
- 意図が不明確
明確な表現
She didn’t know about the accident because she hadn’t watched the news.
(彼女はニュースを見ていなかったから事故を知らなかった)
明確さ:
- 「ニュース非視聴」という過去の状態が「事故無知」の原因
- 論理的に完全に一貫
過去完了形が必須なケース
過去完了形の使用が「強く推奨される」あるいは「必須」のケースを理解することが重要です。
ケース1:順序の逆解釈を防ぐ
❌ 曖昧:
When I arrived at the party, Ken left.
(パーティーに到着したとき、ケンが出ていった)
→ 到着が原因で出ていったのか?
✅ 明確:
When I arrived at the party, Ken had already left.
(到着したとき、ケンはもう出ていた)
→ 私の到着より前に、既に出ていた
ケース2:複数の過去の出来事を述べるとき
❌ 曖昧:
The train left. The passengers were shocked.
(電車が出発した。乗客は驚いた)
→ 乗客が乗っていたのか?タイミングが不明
✅ 明確:
By the time the passengers realized the problem, the train had already left.
(乗客が問題に気づいた時点で、電車はもう出発していた)
→ 完全な時系列が明確
ケース3:背景となる過去の状況を説明するとき
❌ 曖昧:
He was tired when he started the marathon.
(マラソンを始めたとき、彼は疲れていた)
→ なぜ疲れていたのか背景が不明
✅ 明確:
He was tired when he started the marathon because he had been training for months.
(マラソンを始めたとき、彼は疲れていた。なぜなら数ヶ月訓練していたから)
→ 訓練という背景の「過去の活動」が明確
過去形だけで十分なケース
一方、「過去完了形を使う必要がない」あるいは「過去形だけで十分」なケースも存在します。
ケース1:時系列が明らかな場合
After he graduated, he moved to Tokyo.
(卒業した後、東京に引っ越した)
理由:
- 「after」という単語が順序を明確にしている
- 「卒業」→「引越」の時系列は自明
- 過去形だけで十分
より正確な表現(オプション):
After he had graduated, he moved to Tokyo.
(卒業した後、東京に引っ越した)
→ よりフォーマル
ケース2:単一の過去の出来事を述べるとき
I ate lunch at noon.
(正午に昼食を食べた)
理由:
- 単一の出来事のみを述べている
- 他の出来事と比較していない
- 過去形だけで完全に適切
ケース3:明確なタイムワードが付いている場合
She finished the project last Friday.
(彼女は先週の金曜日にプロジェクトを完了した)
理由:
- 「last Friday」という具体的な時点が明示されている
- 他の出来事との相対的な関係を述べていない
- 過去形だけで十分
判定フローチャート:過去形 vs 過去完了形
実際の英文作成時に、「どちらを使うべきか」を瞬時に判定するフローチャート:
NO → 「過去形」を使う
YES → ステップ2へ
(after, before, by the time などが使われているか?)
YES → 過去形でも可能(ただしフォーマル文章では過去完了形を推奨)
NO → ステップ3へ
YES → 「過去完了形」を使う
NO → 「過去形」を使う
判定の実践例
例1:「昨日の出来事」
「朝、コーヒーを飲んだ。その後、仕事に出かけた」
分析:
- ステップ1:YES(2つの出来事)
- ステップ2:NO(時系列表現なし)
- ステップ3:YES(順序が明確に伝わることが重要)
結論:過去完了形を使う
I had drunk coffee before I went to work.
(仕事に出かける前に、コーヒーを飲んでいた)
例2:「先週の出来事」
「先週の月曜日、報告書を提出した」
分析:
- ステップ1:NO(単一の出来事のみ)
結論:過去形を使う
I submitted the report last Monday.
(先週の月曜日、報告書を提出した)
🌟 過去完了 × 時間表現 × 過去形比較 練習問題(全25問)

Q1–Q8:過去形 or 過去完了形のどちらが正しいかを選びなさい。
- By the time I arrived, they (finished / had finished) dinner.
- She (left / had left) before I got home.
- Before the movie started, we (found / had found) our seats.
- After he (had graduated / graduated), he moved to Osaka.(どちらも正しい場合は自然な方)
- By the time she called me, I (went out / had gone out).
- I (had never traveled / never traveled) abroad before I met her.
- Before he came to Japan, he (studied / had studied) Japanese.
- After I (ate / had eaten) breakfast, I went for a walk.
Q9–Q12:had + 過去分詞を入れなさい。
- By the time the meeting started, he ___ already ___ (prepare) all the materials.
- She ___ never ___ (experience) an earthquake before she moved to Tokyo.
- Before the teacher arrived, the students ___ already ___ (finish) the test.
- After he ___ (save) enough money, he bought a new computer.
Q13–Q17:誤りを過去形 or 過去完了形に修正すること。
- When I arrived, he left.(意味:到着した時にはすでに去っていた)
- By the time I got up, she cooked breakfast.
- Before I met him, I know nothing about the company.
- She was tired because she ran for two hours.(基準点:疲れていた)
- After she had finished the report, she goes home.
Q18–Q21:by the time / before / after を使い、自然な時制で英訳しなさい。
- 私が駅に着くまでに、電車はすでに出ていた。
- 彼が来る前に、会議は終わっていた。
- 朝食を食べた後で、散歩に出かけた。
- 彼女に会う前、私は海外に行ったことがなかった。
Q22–Q25:適切な時制を選び、理由を簡単に説明しなさい。
- When I called him, he (left / had left) the office.
- I (went / had gone) shopping yesterday.
- She was happy because she (passed / had passed) the exam.
- After he (finished / had finished) dinner, he washed the dishes.
✅ 解答 & 解説
- had finished
by the time=基準点より前 → 過去完了 - had left
「到着より前」なので過去完了 - had found
before=前の出来事は過去完了 - graduated / had graduated(どちらも可)
after が順序を明確にするため両方正しい
自然:graduated(会話)
より正確:had graduated(フォーマル) - had gone out
by the time=「電話した時点より前」 - had never traveled
before=経験用法の過去完了 - had studied
来日前に勉強していた → 過去完了 - had eaten
after はどちらも可能だが、過去完了がより明確
- had already prepared
「会議開始までに」=過去完了必須 - had never experienced
before=経験の過去完了 - had already finished
before=前の出来事は過去完了 - had saved
after=過去完了がより正確
- When I arrived, he had already left.
到着前に去っていた → 過去完了 - By the time I got up, she had cooked breakfast.
起きる前に調理済み → 過去完了 - Before I met him, I had known nothing about the company.
会う前=過去完了(状態の継続) - She was tired because she had been running for two hours.
理由が基準点より前 → 過去完了(進行形) - After she had finished the report, she went home.
後ろは単純過去が自然
- By the time I arrived at the station, the train had already left.
- Before he came, the meeting had finished.
- After I had eaten breakfast, I went for a walk.
(After I ate breakfast でも可) - Before I met her, I had never been abroad.
- had left
「電話した時点で既に」→過去完了が必須 - went
単一の過去の出来事(比較がない)→過去形 - had passed
「嬉しかった」という状態(基準点)より前に合格している - finished / had finished(両方可)
after が順序を示すためどちらも正しい
自然:finished
より正確:had finished
📝 まとめ:過去完了形マスターの最終統合と卒業

第3回では、過去完了形の知識を実用的なスキルとして定着させるための核心的な論点を統合しました。
最も重要な収穫は、過去完了形が「過去の基準点との相対的な時間関係」を示すために存在し、この本質を理解すれば、過去形との使い分けが論理的かつ必然的に行えるようになることです。
- 使い分け: 過去形は「単独の過去の出来事」、過去完了形は「複数の過去の出来事の前後関係」という明確な原則を確認しました。
- 時間表現: by the time や before と組み合わせることで、時系列を絶対的に明確にする技術を習得しました。
これで、冠詞(Lesson 1)、現在完了形(Lesson 2)に続く「時制の階層構造」の習得は完了です。あなたは今、高度な英語の「時間感覚」を完全に体得し、上級者への道を確定させました。
🚀 上級者を目指すための継続学習アドバイス
得られた知識を錆びつかせず、さらに発展させるために、以下の3つの訓練を継続しましょう。
- 「時制の目撃者」トレーニング: 英文を読む際、過去完了形(had Vp.p.)を見つけたら、必ずその文中に存在する「過去の基準点」(過去形)を特定する訓練をしてください。これにより、過去完了形が常に相対的に使われているという感覚が脳に定着します。
- 例: I had finished (過去完了) before she arrived (過去形).
- 「After」と「Before」の過去形使用チャレンジ: あえて after や before を使い、過去完了形を使わずに過去形だけで時系列を表現する文章を意識的に作成し、次に過去完了形を使って同じ意味の文を作成する対比訓練を行ってください。これにより、過去完了形がなぜ必要なのか、その論理的必然性をさらに深く体感できます。
過去完了形を完全に習得したあなたは、もはや文法の壁に恐れることはありません。この自信を土台に、さらなる上級表現へと挑戦し続けてください。
著者からの最終メッセージ
35年以上の英語教育経験を通じて、私は多くの学習者が「時制の習得」で大きな成長を遂げる場面を見てきました。
冠詞から始まり、現在完了形を経て、そして過去完了形へ。このLesson 1~3の3つのステップを登ることで、皆様は「英語の時間感覚」を体得されました。
この時間感覚が、実はビジネス英語、学術英語、文学的表現など、あらゆる英語スタイルの基礎になるのです。
過去完了形をマスターした皆様は、もはや「中級者」ではなく、確実に「上級者への道」を歩んでいます。
皆様の英語学習の継続と成功を、心より応援しています。
📖 さらなる英語学習をお考えの方へ

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このガイドは、35年以上の英語教育経験を持つ矢野晃によって作成されました。数千人の講師を育て数千人の生徒を指導してきた実績に基づく、実践的で効果的な学習方法をお届けしています。






