🧐 はじめに:「時制の階層構造」を理解する
Lesson 2で現在完了形を完全にマスターした皆様は、「過去と現在がどのようにつながるのか」という英語特有の時間感覚を掴んでいます。
しかし、英語の時制の世界には、さらに深い階層があります。それが、Lesson 3で学「過去完了形(Past Perfect)」です。
過去完了形は、単純な過去形とは異なり、「過去のある時点よりも、さらに前に起こった出来事」を表現するために存在する、非常に精密な時制です。複数の過去の出来事が絡むストーリーテリングにおいて、「どの出来事がより先に起こったのか」を明確に伝える、論理的な接着剤のような役割を果たします。
日本人学習者の多くは、「過去の過去」という概念を難しく感じ、過去完了形を敬遠しがちです。しかし、構造は「had + 過去分詞」とシンプルで、現在完了形を理解しているあなたなら、その概念は驚くほどスムーズに習得できます。
✅ 構造:過去完了形の基本形「had + 過去分詞」のシンプルな作り方を習得。
✅ 時間軸:過去完了形がなぜ存在し、**「過去形を基準点」**としてどのように働くのかを視覚的に理解。
✅ 本質:過去の複数の出来事の前後関係を明確にする、過去完了形の役割を完璧に把握。
この記事を読み終えれば、過去完了形という時制が「複雑な概念」ではなく、あなたの表現力を深めるための必然的なツールであることが理解できるでしょう。さあ、時制の階層構造をさらに深く探りましょう!
過去完了形とは何か

過去完了形を理解するには、まず「なぜこの時制が必要なのか」という根本的な問いから始める必要があります。
過去完了形の基本定義
過去完了形は、「過去のある時点よりも、さらに前に起こった出来事や状態」を表す時制です。
「主語 + had + 過去分詞」の形で使い、複数の過去の出来事を並べるとき、「どちらがより先に起こったのか」を明確に伝える役割を持ちます。
なぜ過去完了形が必要なのか
これを理解するために、簡単な例を考えてみましょう。
もし過去完了形がなかったら:
I went to the cinema. The movie started.
(映画館に行った。映画が始まった。)
この2つの文だけでは、「どちらが先に起こったのか」が不明確です。
- 映画館に着いてから映画が始まったのか?
- 映画が始まった後に映画館に着いたのか?
文だけからは判断できません。
過去完了形があれば:
I went to the cinema. The movie had already started.
(映画館に行った。映画はすでに始まっていた。)
この表現で、「映画が始まった」→「映画館に着いた」という時間的順序が、完全に明確になります。
過去完了形の本質的な役割:「複数の過去の出来事の相対的な時間関係を明確にする」
これが、過去完了形が存在する理由です。
時間軸で理解する
過去完了形を習得する最も効果的な方法は、「時間軸」を視覚化することです。
- 現在完了形の時間軸:
-
過去 ━━━━━━ 現在
↑ ↑
出来事 今 - 過去形の時間軸:
-
過去のある時点 現在
↑
出来事 - 過去完了形の時間軸:
-
過去の過去 ━ 過去の基準点 現在
↑ ↑
過去完了 過去形
過去完了形は、「過去形を『基準点』として、その基準点よりも前の出来事」を表現するのです。
過去完了形の構造:had + 過去分詞

過去完了形の構造は、実は非常にシンプルです。Lesson 2で学んだ現在完了形「have/has + 過去分詞」と比べると、理解は更に容易です。
基本形の公式
過去完了形 = had + 過去分詞
これだけです。主語が何であれ、「had」は常に同じ形を保ちます(have/has のような変化がない)。
各要素の役割
had:助動詞
- 「過去」における時制を示す
- 主語に関わらず常に「had」で統一される
- これが「現在完了形の have/has」との最大の違い
過去分詞:動詞の特別な形
- Lesson2の第1回で詳しく学んだ、あの「規則活用(-ed)」と「不規則活用」
- 過去完了形では、現在完了形と全く同じ過去分詞を使用
肯定文の構造と例
主語 + had + 過去分詞 + (目的語・その他の要素)
例文1:規則活用の過去分詞
She had finished her work before I arrived.
(私が到着する前に、彼女は仕事を終えていた)
構造分析:
- 主語:She
- had:過去形の助動詞
- finished:finish の過去分詞(規則活用)
- her work:目的語
- before I arrived:時間表現(いつの時点での「過去」か)
例文2:不規則活用の過去分詞
When I arrived at the station, the train had already left.
(駅に着いたとき、電車はもう出発していた)
構造分析:
- 主語:the train
- had:過去形の助動詞
- left:leave の過去分詞(不規則活用)
- already:副詞(出来事の完了を強調)
- 時間表現:When I arrived at the station(基準点)
例文3:複雑な過去完了形
They had worked on the project for three months when the company decided to cancel it.
(会社がそれをキャンセルすることを決めたとき、彼らはそのプロジェクトに3ヶ月間取り組んでいた)
構造分析:
- 主語:They
- had:過去形の助動詞
- worked:work の過去分詞(規則活用)
- for three months:期間を表す
- when the company decided:基準点となる過去形
否定文の構造
主語 + had not (hadn’t) + 過去分詞
否定文の例
I had not seen the movie before that day.
(その日まで、私はその映画を見たことがなかった)
He hadn’t finished his homework when the teacher asked for it.
(先生がそれを求めたとき、彼は宿題を終えていなかった)
注意:
- 口語では「hadn’t」という縮約形が自然
- フォーマルな文章では「had not」と書くことも多い
疑問文の構造
Had + 主語 + 過去分詞 + ?
疑問文の例
Had you eaten breakfast when he arrived?
(彼が到着したとき、あなたは朝食を食べていましたか?)
Had they completed the project before the deadline?
(締め切りの前に、彼らはプロジェクトを完了していましたか?)
疑問文への短い答え方
Yes, I had. / No, I hadn’t.
Yes, they had. / No, they hadn’t.
過去分詞を完全に理解する

過去完了形の習得のために、「過去分詞」についての理解を更に深める必要があります。Lesson 2で学んだ知識を、ここで統合しましょう。
規則活用の過去分詞
規則活用の過去分詞は、動詞の原形に「-ed」を追加するだけです。
| 原形 | 過去形 | 過去分詞 |
|---|---|---|
| work | worked | worked |
| play | played | played |
| clean | cleaned | cleaned |
| open | opened | opened |
| finish | finished | finished |
| decide | decided | decided |
規則活用の例文:
I had worked there for two years before I quit.
(辞める前に、私はそこで2年間働いていた)
She had decided to move to Tokyo before she graduated.
(卒業する前に、彼女は東京に引っ越すことを決めていた)
不規則活用の過去分詞
不規則活用の過去分詞は、動詞ごとに異なる形を持ちます。Lesson 2で学んだ「AAA型」「ABA型」「ABB型」「ABC型」という分類が、ここでも活躍します。
| 原形 | 過去形 | 過去分詞 | 説明 |
|---|---|---|---|
| go | went | gone | ABC型 |
| see | saw | seen | ABC型 |
| eat | ate | eaten | ABC型 |
| write | wrote | written | ABC型 |
| take | took | taken | ABC型 |
| come | came | come | ABA型 |
| give | gave | given | ABC型 |
| break | broke | broken | ABC型 |
| choose | chose | chosen | ABC型 |
| know | knew | known | ABC型 |
| have | had | had | ABB型 |
| say | said | said | ABB型 |
不規則活用の例文:
She had gone home before I arrived.
(私が到着する前に、彼女は家に帰っていた)
He had never eaten sushi before that day.
(その日まで、彼は寿司を食べたことがなかった)
They had already chosen the winner when we arrived.
(私たちが到着したとき、彼らはすでに優勝者を選んでいた)
過去分詞を覚えるためのコツ
コツ1:パターン分類で効率化
- Lesson 2で学んだAAA型、ABA型、ABB型、ABC型ごとにまとめて覚える
- 同じパターンの動詞をグループ化することで、記憶効率が大幅に上がる
コツ2:実際の文脈で覚える
- 過去分詞を単独で暗記するのではなく、「過去完了形の文」の中で覚える
- 「had + 過去分詞」というフレーズで定着させる
コツ3:定期的な復習
- 新しい不規則動詞を学んだら、その日と翌日、1週間後に復習
- スペーシング学習により、長期記憶に定着させる
過去完了形の3つの主要用法

過去完了形は、主に3つの異なる文脈で使用されます。各用法を理解することで、過去完了形の「実際の役割」が明確になります。
用法1:完了・結果用法「〜し終えていた」
定義: 過去のある基準点より前に、ある動作が完了していたことを表します。
タイムライン:
電車が出発した
(had left)
私たちが到着した
(arrived)
代表例:
The train had already left when we arrived at the station.
(私たちが駅に着いたとき、電車はすでに出発していた)
タイムライン分析:
- 電車が出発した(過去完了:had left)
- 私たちが駅に到着した(過去:arrived)← これが「基準点」
- 電車が「基準点より前に」既に出発していた
その他の例:
I had finished my homework before my mother called me for dinner.
(母が夕食に呼んだとき、私は宿題を終えていた)
She had written the email before she left the office.
(彼女はオフィスを出る前にメールを書いていた)
使用場面: ストーリーテリングやナレーション、過去の出来事を説明する際に頻出します。「背景となる過去の完了した出来事」を明確にするために使用されます。
用法2:経験用法「〜したことがあった」
定義: 過去のある時点までに、それまでの人生で経験したことを表します。
タイムライン:
フランスに2回行った
(had been)
私に話した
(told)
代表例:
He told me he had been to France twice.
(彼は2度フランスに行ったことがあると私に話した)
タイムライン分析:
- 彼がフランスに2回行った(過去完了:had been)
- 彼が私に話した(過去:told)← これが「基準点」
- 話した「時点までに」フランスに2度行った経験がある
その他の例:
When I met her, she had never experienced a real earthquake.
(彼女に会ったとき、彼女は本物の地震を経験したことがなかった)
By the time he graduated, he had visited 20 countries.
(卒業するまでに、彼は20カ国を訪問していた)
使用場面: 過去の時点での「それまでの経験」を述べる場面で使用されます。「過去のある時点で、その人の人生経験」を客観的に述べる際に活躍します。
用法3:継続用法「〜していた(ずっと)」
定義: 過去のある期間、ずっと同じ状態が続いていたことを表します。
タイムライン:
知り合った
(had known)
結婚した
(got married)
代表例:
They had known each other for seven years when they got married.
(彼らは結婚したとき、7年間知り合いだった)
タイムライン分析:
- 彼らが知り合った(7年前)
- 結婚した(過去)← これが「基準点」
- 知り合ったから結婚まで、「ずっと」関係が続いていた
その他の例:
She had lived in the city for five years before she moved to the countryside.
(田舎に引っ越す前に、彼女は5年間その街に住んでいた)
Before the accident, they had worked together for a decade.
(事故の前に、彼らは10年間一緒に働いていた)
使用場面: 過去の「ある時点での継続的な状態」を述べる場面で使用されます。現在完了形の「過去版」と考えると理解しやすいです。
🌟 過去完了形 練習問題(全20問)

Part 1:基本問題(穴埋め)
Q1–Q6:had + 過去分詞の形に直して文を完成させなさい。
- When I arrived home, my sister ___ already ___ (leave).
- She ___ not ___ (finish) her homework when the teacher checked it.
- The movie ___ just ___ (start) when we got to the cinema.
- Had you ___ (eat) breakfast before he came?
- They ___ never ___ (see) snow before last winter.
- By the time he got to the station, the train ___ (depart).
Part 2:用法判定問題(完了・結果/経験/継続)
次の文は、過去完了形のどの用法にあたりますか?
( A:完了・結果 / B:経験 / C:継続 )
- She had studied French for five years before she moved to Paris.
- He told me he had visited Canada twice.
- I had already cleaned the room when my parents came home.
Part 3:時制の選択問題(過去形 or 過去完了形)
- When I met him, he (was / had been) sick for two days.
- The bus (left / had left) when we arrived at the stop.
- She (finished / had finished) her report before the deadline.
Part 4:日英翻訳
- 私が駅に着いたとき、雨はすでにやんでいた。
- 彼女に会ったとき、彼女は寿司を食べたことがなかった。
- その事故の前に、彼らは10年間一緒に働いていた。
Part 5:誤文訂正
次の文の誤りを正しい形に直しなさい。
- When he arrived, the meeting has finished.
- She had went home before I called her.
- They hadn’t saw the movie before yesterday.
Part 6:短い英作文
- 「私はその本を読む前に、映画を見ていた。」
(“本を読む” が基準点) - 「彼が来るまでに、私は1時間ずっと待っていた。」
(継続用法)
✅ 解答 & 解説
Part 1:基本問題
- had already left
- leave → left(過去分詞)
- 「〜に着いたとき、すでに〜していた」=典型的な完了・結果
- had not finished
- finished(規則動詞)
- 「〜したとき、まだ終えていなかった」なので否定の過去完了
- had just started
- start → started
- just = ちょうどその直前
- eaten
- eat → eaten
- 疑問文なので Had you eaten〜?
- had never seen
- see → seen
- never + 過去完了 = 経験の否定
- had departed
- depart → departed
- 駅に着いた(過去)より前に出発していた
Part 2:用法判定
- C:継続
- for five years → 継続を示す典型表現
- B:経験
- visited twice → 過去のある時点までの経験
- A:完了・結果
- already cleaned → 完了要素
Part 3:時制選択
- had been
- 「彼に会ったとき」(過去)よりも前から体調不良が継続
- had left
- 到着(過去形)より前にバスが出発していた
- had finished
- 締め切り(過去)より前に完了
Part 4:日英翻訳
- When I arrived at the station, the rain had already stopped.
- stopped(規則活用)
- 基準点=arrived
- When I met her, she had never eaten sushi.
- never eaten → 経験の否定
- Before the accident, they had worked together for ten years.
- for ten years → 継続用法
Part 5:誤文訂正
- When he arrived, the meeting had finished.
- has finished → ×(現在完了)
- 過去より前の出来事なので had + 過去分詞
- She had gone home before I called her.
- went → ×、不規則活用 go – went – gone
- They hadn’t seen the movie before yesterday.
- saw → ×、過去分詞は seen
Part 6:英作文
- I had watched the movie before I read the book.
- 基準点:本を読んだ(過去)
- それより前:映画を見た(過去完了)
- I had been waiting for an hour before he came.
- for an hour → 継続
- 過去の継続(過去完了進行形)を使うと自然
(過去完了形のみでも可:I had waited 〜)
📝 まとめ:過去完了形の基礎と論理的役割

この第1回では、過去完了形という時制が「過去の基準点よりもさらに前の過去」を表す、相対的な時間関係を示す役割を担っていることを、時間軸を使って視覚的に理解しました。
最も重要な学習成果は、過去完了形が「複数の過去の出来事の時間的順序」を明確にするために存在するという、その論理的必然性を理解したことです。
- 構造: 常に「had + 過去分詞」で、主語による変化がないため、現在完了形よりもシンプルです。
- 役割: 過去完了形を使うことで、聞き手は「どの出来事が先に起こったのか」を迷うことなく理解できます。
🚀 学習を加速させる実践的アドバイス
過去完了形の概念を知識として定着させ、次回の「過去形との使い分け」に備えるために、以下の練習法を試しましょう。
- 「過去の過去」ストーリートレーニング: 過去に起こった出来事を一つ選び(例:友達と会った)、その「基準点」よりも前に起こった出来事を、必ず過去完了形を使って表現する練習をします。
- 例: 基準点: When I met my friend (友達に会ったとき)
- 過去の過去: He had already finished his work. (彼はすでに仕事を終えていた) この訓練を繰り返すことで、「過去の過去」という概念が自然な表現へと変わります。
- 不規則動詞の過去分詞を再チェック: 過去完了形は、その構成要素として過去分詞を必要とします。Lesson 2で学んだ不規則動詞の過去分詞(go-went-gone, see-saw-seen など)を再度確認し、「had + 過去分詞」のセットで声に出す練習をしましょう。
- 時制の概念を「図」でアウトプット: 記事で学んだ「過去完了形、過去形、現在」の3点を結ぶ時間軸の図を、何も見ずにノートに書き出し、各時制の役割を自分の言葉で説明してみましょう。視覚的な理解を言語化することで、曖昧さがなくなります。
次回予告:第2回目は「過去完了形の具体的な使用場面」
この第1回では、過去完了形の最も基本的で重要な要素、すなわち「had + 過去分詞」という構造、そして「時間軸」という概念を通じて、過去完了形がなぜ存在し、どのような役割を果たすのかを、完全に解説しました。
次回の第2回では、過去完了形の「具体的な使用場面」に焦点を当てます。
次回も、このシリーズをお楽しみに!
このガイドは、35年以上の英語教育経験を基に作成されました。数千人の講師を育て数千人の生徒を指導してきた実績に基づく、実践的で効果的な学習方法をお届けしています。
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このガイドは、35年以上の英語教育経験を持つ矢野晃によって作成されました。数千人の講師を育て数千人の生徒を指導してきた実績に基づく、実践的で効果的な学習方法をお届けしています。






