🧐 はじめに:なぜ冠詞は難しいのか?
英語学習者が初心者から中級者へとレベルアップする際、必ず立ちはだかる最大の壁の一つ、それが「冠詞」です。
時制や不定詞、関係代名詞といった派手な文法事項と比べると地味に見えるかもしれません。しかし、冠詞一つを間違えるだけで、文の意味が大きく変わったり、相手に意図しない誤解を与えてしまうことが多々あります。なぜなら、日本語には冠詞という概念自体がないため、私たちはその重要性を見落とし、つい後回しにしてしまいがちだからです。
ですが、正確なコミュニケーション能力を身につけるためには、冠詞の習得は避けて通れません。
この「冠詞の完全ガイド」シリーズでは、冠詞の全体像を徹底的に解説します。第1回目となるこの記事では、冠詞の基本的な役割を理解し、特に日本人学習者が最も間違いやすい不定冠詞(a/an)の使い分けに焦点を当てます。スペルではなく「発音」で判断するというルールの真価、そして hour や university のような盲点となる単語の正しい使い方を徹底的に解説します。
この記事を読み終えれば、a/an の使い分けに自信が持てるようになり、より自然で正確な英語表現へ一歩踏み出せるでしょう。
冠詞とは何か

英語の冠詞は、名詞の「特定性」を示す信号機のようなものです。その役割を理解することが、冠詞マスターへの第一歩になります。
英語には3つの冠詞パターンがあります:
- 不定冠詞(a/an)
-
「どれでもよい1つの例」を指すときに使います。例えば「I need a pen.(ペンが1本必要です)」では、特定のペンではなく、「何でもいいから1本のペン」という意味になります。
- 定冠詞(the)
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「お互いが認識している特定のもの」を指します。同じペンでも「Could you pass me the pen on the table?(テーブルの上のペンを取ってくれますか?)」と言えば、話し手と聞き手の間で「どのペン」かが明確です。
- 無冠詞(ゼロ冠詞)
-
一般的な概念や抽象的なものを表します。「Pens are useful tools for writing.(ペンは書くのに便利な道具です)」は、ペン全般についての話なので冠詞がつきません。
この3つのパターンが英文の中で適切に使い分けられているかに注意を向けることで、英文の理解度が劇的に深まります。
不定冠詞(a/an)の使い方

不定冠詞は、4つの典型的な場面で使われます。それぞれの場面をしっかり理解することが重要です。
1. 初めて話題に出すもの
会話の中で、まだ相手が知らないものを初めて登場させるときに使います。
例:I saw a cat in the garden.(昨日、庭で猫を見かけました)
この文では「a cat」という表現で、「何か一匹の猫」「どの猫かは特定していない」という意味が伝わります。
もし「I saw the cat in the garden.」と言ったら、話し手と聞き手の間で「その猫」が何であるか分かっているという意味に変わってしまいます。
2. 1つだけあることを表す
「1つ」「1人」という数を明確にしたいときに使います。
例:She has a sister.(彼女は姉妹が1人います)
If I had a million dollars, I would travel around the world.(もし100万ドルあったら、世界中を旅行するのに)
3. 職業や身分を表す
職業や社会的立場を述べるときには、必ず不定冠詞を使います。
例:He is an engineer.(彼はエンジニアです)
She wants to be a doctor.(彼女は医者になりたいです)
この用法は日本人学習者がしばしば間違えるポイントです。「He is engineer.」と無冠詞で言うと、英語話者には違和感があります。
4. 数量を表す「1つの」
「1つの」という数量を表現したいときに使います。
例:I bought a pen.(私は1本のペンを買いました)
The dog ate a piece of meat.(その犬は1片の肉を食べました)
a と an の使い分け

不定冠詞には「a」と「an」の2つの形がありますが、その使い分けのルールは、実は単純です。
基本ルール:スペルではなく、発音で判断する
これが最も重要なポイントです。多くの学習者がスペルで判断しようとして間違えてしまいます。
- a を使う場合
-
子音の音で始まる単語の前に「a」をつけます。
- a book(本)
- a car(車)
- a dog(犬)
- a house(家)
- an を使う場合
-
母音(a, e, i, o, u)の音で始まる単語の前に「an」をつけます。
- an apple(りんご)
- an umbrella(傘)
- an egg(卵)
- an old man(年配の男性)
よくある引っかかりポイント
ここから先が、多くの学習者が間違える重要なポイントです。スペルではなく発音で判断するというルールの真価が発揮されます。
1. h で始まる単語
an hour(1時間)
多くの学習者は「h は子音だから a hour だ」と考えてしまいます。しかし、hour の h は発音されません。実際の発音は「アワー」で、母音から始まるので「an hour」が正しいのです。
a historic building(歴史的な建造物)
一方、historic の h は発音されます(「ヒストリック」)。だから「a historic building」になります。
2. u で始まる単語
a university(大学)
「u」は母音に見えますが、「ユニバーシティ」と発音するため、実際には「ユ」という子音の音で始まっています。だから「a university」が正しい形です。
同じように「a usual case」(通常のケース)も、「u」が「ユ」と発音されるため「a」を使います。
3. e で始まる単語
a European(ヨーロッパ人)
European は「ユーロピアン」と発音します。最初の音が「ユ」という子音なので「a European」になります。
これらの例から分かるように、見た目のスペルに惑わされず、実際の発音に耳を傾けることが極めて重要なのです。
不定冠詞を使わない場合

不定冠詞 a/an はすべての名詞に使えるわけではありません。使えない場合も理解しておきましょう。
- 複数形には使いません
-
- ○ books(本)→ 不定冠詞なし
- × a books
- 不可算名詞には使いません
-
不可算名詞とは、数えられない名詞のことです。
- ○ water(水)→ 不定冠詞なし
- × a waters
- ○ information(情報)
- × a information
- 固有名詞には基本的に使いません
-
人名や地名などの固有名詞には、原則として冠詞をつけません。
- ○ Tokyo(東京)
- × a Tokyo
- ○ John(ジョン)
- × a John
実践的な例文集

ここまでの内容を、実際の文脈の中で見てみましょう。
I saw an old man with a walking stick in the park yesterday.
(昨日、公園で杖をついた老人を見かけました)
「an old man」→ 老人は初めて話題に出るもので、「an」は「old」が母音で始まるから 「a walking stick」→ 杖は初めて話題に出るもので、「a」は「walking」が子音で始まるから
She is a university student, but her brother is an elementary school student. (彼女は大学生ですが、彼女の兄は小学生です)
「a university student」→ 身分を表す表現で、「u」が「ユ」と発音されるから 「an elementary school student」→ 身分を表す表現で、「elementary」が母音で始まるから
I ate a sandwich for lunch.
(私は昼食にサンドイッチを食べました)
「a sandwich」→ 数量を示す表現で、「s」で始まるから「a」
He bought a new car last week.
(彼は先週新しい車を買いました)
「a new car」→ 1台の新しい車を表し、「n」は子音で始まるから
We live in an apartment near the station.
(私たちは駅の近くのアパートに住んでいます)
「an apartment」→ 初めて話題に出るもので、「apartment」が母音で始まるから
練習問題で定着させよう

ここまでで学んだ内容を、練習問題で確認してみましょう。
次の各文の( )に a または an を入れてください。
- I need ( )apple for my recipe.
- She drives ( )car to work every day.
- Do you have ( )hour to spare?
- My sister goes to ( )university in Tokyo.
- He is ( )honest man.
- That is ( )interesting movie.
答えと解説
1. I need an apple for my recipe. → apple は「ア」という母音で始まるから「an」
2. She drives a car to work every day. → car は「ク」という子音で始まるから「a」
3. Do you have an hour to spare? → hour の h は発音されない。実際には「ア」という母音で始まるから「an」
4. My sister goes to a university in Tokyo. → university は「ユ」という子音で始まるから「a」
5. He is an honest man. → honest の h は発音されない。実際には「ア」という母音で始まるから「an」
6. That is an interesting movie. → interesting は「イ」という母音で始まるから「an」
まとめ:🗣️冠詞マスターのための学習アドバイス

今回は、冠詞の基本概念から不定冠詞 a/an の具体的な使い方、そして多くの学習者がつまずく「発音に基づくルール」について深く掘り下げました。
【a/an の使い方おさらい】
- 主な役割: 初めて話題に出すもの、1つだけあること、職業・身分、数量を示す。
- 区別の原則: スペルではなく、発音で判断する。
- 注意点: hour や honest のように h が発音されない単語、 university や European のように u が「ユ」と発音される単語に細心の注意を払う。
- 使わない場合: 複数形、不可算名詞、固有名詞には使用しない。
🗣️ 冠詞マスターのための学習アドバイス
冠詞のルールは、数時間で「知った」としても、数分で「使える」ようにはなりません。なぜなら、冠詞は知識ではなく感覚(センス)を伴うスキルだからです。
冠詞を本当にマスターするために、以下の2つの実践的な学習アドバイスを日々の英語学習に取り入れてみてください。
- 「冠詞の有無」を意識する読解・リスニング: 英文を読んだり聞いたりするとき、「なぜここに a/an が付いているのか?」「なぜ the ではないのか?」「なぜ無冠詞なのか?」と、すべての名詞に対して疑問を持つ癖をつけましょう。意識的にインプットを繰り返すことで、半年後、一年後には、その「感覚」が自然と身についていることに気づくはずです。
- 不安なときはすぐに調べる習慣: 英作文や英会話で、ある名詞の前に冠詞が必要か不安になったら、面倒がらずに必ず辞書や文法書で確認しましょう。「多分これで合っているだろう」と流すのではなく、一つひとつの疑問を解決していく積み重ねが、大きな実力差となります。
次回は、いよいよ「特定のもの」を指す定冠詞 the の使い方と、冠詞の判断が最も難しくなる「無冠詞(ゼロ冠詞)」のケースについて徹底的に解説します。お楽しみに!
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