「外国語を身につけるには、その国に行って生活するのが最適の方法だ!」などとよく言われています。まさにその通りです。高校3年間+大学4年間=合計7年間も留学できたらいいですよね! それが可能な方は是非行ってください。素晴らしい世界が開けてくると思います。
残念ながら、それは全ての英語学習者に可能な方法ではありません。私も行けませんでした。それでも、留学も海外生活もせずに日本で勉強した結果、英語・英会話講師を経て、講師トレーナー、管理者として数千人以上の外国人講師と日本人講師に「英会話の教え方」を指導してきました。
自分自身の学習経験、講師として初心者から上級者まで担当し学習者の悩みや喜びを共有し、また指導した講師達の実例に基づいて、日本で英語を学ぶ方法を伝えていきたいと思います。目的やレベルごとに学習方法が変わってきますので、ここでは、「英語は話せるようになってみたいけど、そこまで勉強したくはないなぁ……」と言う方向けに、「なぜ勉強する必要がないのか!」を説明していきます。
1. 初心者の学習方法 ① - “趣味・旅行”目的の場合
もし、あなたの目的が以下のような目的で英語を勉強しようとしていて、
- 「海外旅行に行ったとき話せると便利だから」
- 「町で外国人に道を聞かれたとき困らないように」
でも、「あまり大変な思いまでして勉強したくはない…..」、と思っているのであれば、これから説明する方法で試してみてください。
- 文法は勉強する必要ない、センテンスで話す必要もない
- 丁寧な英語か、ふさわしい英語か、などを考える必要はない
- 翻訳アプリを携帯する
- 余裕があれば、語彙力をつける
- 更に余裕があれば、リスニングの練習をする
一つずつ説明します。
① 文法は勉強する必要ない、センテンスで話す必要もない
日本人は文法が好きです。英語の勉強と言うと、文法の勉強が頭に浮かぶみたいです。英会話スクールで体験レッスンに来たお客さんにレベルチェックをして該当するレベルのテキストを紹介すると、「このくらいは出来る。/知っている。」と言うような反応をされることがあります。その場合の、「このくらい」は、ほとんどの場合、文法事項を指しているようです。
また、実際にレッスンをすると、正確な文章で話そうと一生懸命努力します。前置詞は何を使うのか、”a”なのか”the”を使うべきなのか、語順はこれで良いのか、など、考え込んでしまって、いつになっても言葉が出て来ないことがあります。恐らく学校教育の影響で「正しい英語をセンテンスではなさいといけない!」と言う、無意識の先入観を持ってしまっているのだと思います。
でも、よく考えてみてください。日本語のネイティブスピーカーの皆さんが、日本語で家族や友人とコミュニケーションを取る場合に、どのくらいの頻度で、フルセンテンスで、しかも全く文法的ミスの無い、完全な文章で話していますか?
この例は、ごく普通の会話だと思います。(この記事は2023年WBC優勝直後に書いています)
「昨日の試合見た?」
「見た!」
「凄かったよね?」
「本当に!」
この会話を無理やりフルセンテンスにするとこうなります。
「あなたは昨日の野球の試合を見ましたか?」
「はい。私はその試合を見ました。」
「その試合は凄い試合でしたね?」
「私も本当にすごい試合だと思いました。」
まぁ、ふつうこんな話し方をする事は無いと思います。英語も同じです。
“Did you watch the baseball game yesterday?”
“Yeah!”
“Really exciting/thrilling!”
“Absolutely!”
最初のセンテンス以外は、単語だけですが、全く問題ありません。
② 丁寧な英語か、ふさわしい英語か、などを考える必要はない
また、自分が話そうとする文章が、丁寧かどうか、場面に適切かどうかを、気にする人がいます。例えば、レストランで注文する時には、
- I’d like to have ~
- Could I have ~
- May I have ~
- Can I have ~
「海外旅行に行ってレストランで注文する時に、どの表現を使うのは一番自然ですか?」と言うような質問を受けたことが良くあります。
どれでもいいです!
お店の人からすると、外国から来た旅行者だと分かります。外国語である英語の初心者だという事も分かります。少しくらい、英語のミスがあったところで気にしません。それよりも早く注文してくれた方が助かります!
日本国内で、日本語でオーダーする時に、どのような表現を使いますか? ファーストフードのお店で、「お忙しいところ恐縮ですが、チーズバーガーを1つ頂けますでしょうか?」なんて言わないですよね?
「頂けますでしょうか?」と「頂けますか?」のどちらの表現が「丁寧だ」とか「ふさわしい」とか、悩まれて、行列作られるくらいなら、お店の人は「指さしてでも注文してくれ!」と思うでしょう。
日本語では、普通に「チーズバーガーひとつ(ください)」って言いますよね? 英語も同じです。
“A Cheeseburger please.” で全く問題ありません。Aが付いてなかろうが、複数形のsが付いてなかろうが、関係ありません。指1本使えば済む話です。誰も何も気にしません。
買い物する時も同じです。指さしながら、”This (one) please.” で十分です。“one” とか付いてなくても大丈夫です。観光客が買い物に来ていて、指さしていれば、「この観光客、これが欲しいんだな!」ってお店の人わかります。
「町で外国人に道を聞かれたとき困らないように」
これも同じですね。単語と身振りで十分です。そもそも日本人に日本語で道を聞かれた場合はどう説明しますか?
「駅はどうやって行けばいいですか?」
「そこ右行って、まっすぐです。」
だいたいこんなもんだと思います。行ってみて分からなかったら、また誰かに聞くだろう、くらいに考えますよね?
外国人に英語で道を聞かれると、重要問題を任命されたような気持ちになって、その外国人観光客の行程に対して自分の道案内が全責任を負うかのごとく、真剣になってしまいます。
“How can I get to the station?”
“Turn right at the corner and go straight.”
で良いんですが、別にrightとgoだけでも十分です。紙面で説明するのは難しいのですが、
“Right” って言いながら、そこの曲がり角を指さし、右に手を動かす
“Go” って言いながら、右側にまっすぐ進むジェスチャーをする
これで十分です。
どのような英語表現で、どんな前置詞を使って文を作り、どのような表現が丁寧な印象を与え、日本人がホスピタリティーに溢れた民族だと感激して帰国してくるか、などと考えてしまって、いつになっても道を教えて貰えないより、RightとGoで直ぐに教えて貰った方が観光客も助かります。新幹線にも遅れません。
もし、上手く伝わらなかったとしても、誰か他の人に聞くか、地図アプリなどを使い自分で探して駅に辿り着けます。慣れない英語で一生懸命教えようとしてくれた、というだけで感謝してくれます。
③ 翻訳アプリを携帯する
- 文法を勉強する必要はありません、センテンスで話す必要もありません
- 丁寧な英語か、ふさわしい英語か、などを考える必要はない
- 翻訳アプリを携帯する
- 余裕があれば、語彙力をつける
「センテンスで話す必要はない」「単語で話せば良い」と言う事は分かった。でも、単語を知らなかったらどうすれば良いのか?
その通りです!
順番は逆になりますが、
「余裕があれば、語彙力をつける」
これが大切です。
勉強しないといけない、と言う事に変わりはありませんが、文法は勉強しなくても良い訳なので、出来たら語彙力をつける努力をしてみてください。
ここで大切な事は、「目的にあった単語・表現を覚える」と言う事です。単語と文法では大きな違いがあります。文法の場合は、必ず基礎から勉強する必要があります。旅行目的でも、留学目的でも、ビジネス目的でも、文法の勉強は基礎から徐々に積み上げていきます。
単語の勉強は違います。「旅行」(と言っても、どこへどんな旅行するのかによっても変わってきます)、「留学」「ビジネス」、それぞれの目的にはそれぞれ必要な単語の種類が変わってきます。
何も基礎単語から順番に覚えていく必要はありません。「旅行」なら「旅行」、「ビジネス」なら「ビジネス」、皆さんの目的にあった、単語集・表現集を見つけて、少しずつ覚えていくようにしてください。
ここでまた注意点です。
良く語彙力をつける勉強法と言う事で、「単語はどうやって覚えたらいいですか?」のような質問を受けます。
どうやって覚えても大丈夫です! なんか元も子もない回答ですが、理由があります。
人にはそれぞれ学習スタイルがあります。これは英語学習に限ったことではありません。どんな事でも、「何かものを覚える」とか「何かを身につける」と言うときに、その人にとって一番覚えやすい方法があります。
大きく分けると、
- 声に出して、発声する事で覚える → aタイプ
- 聞いて覚える → bタイプ
つまり、aタイプなら、語彙集を手に取り、繰り返し音読して覚える方が効率がいいし、bタイプであれば、音声付きの教材を買って、聞きながら覚えるのが効率が良いでしょう。
ちなみに、どんなテキストを使う場合も、必ず音声付きのテキストで学習してください。そうしないと、せっかくの努力が水の泡になってしまいます。
- 色分け、図式化、など、目で見てインプットできる → aタイプ
- 色分け、図式化、など、自分でノートを作成する事によって覚えられる. → bタイプ
aタイプとbタイプは似ていますが、aタイプはテキストが色分けしてあったり、図式化してあれば、見ているだけで覚えられます。なので、自分に合った見た目のテキストが見つかれば、読んでいるだけで覚えられます。bタイプは、自分でノートなどに、色分けしたり、図式化するという行動を取ることで覚えられます。なので、どんなテキストを選んでも良いのですが、自分で作業をする必要があります。
- ひたすら書いて覚えるタイプ
これは、「ひたすら書いて覚える」タイプの人です。動作で覚えるのできれいに書く必要はありません。裏紙などにひたすら、何回も何回も書き続けるのです。
- 「一緒に勉強しよう!」タイプ
これは、他の人と話しながら覚えるタイプです。「一緒に勉強しよう!」って誘ってくる人いませんでしたか? このタイプの人は、話しながら勉強する事で頭に入ります。
なので、どうやって覚えても大丈夫です!
恐らく誰でも、学生時代のテスト勉強で、身についた自分にやりやすい学習方法があると思います。特に暗記物の学習方法です。それを思い出してみて当てはめてみてください。
最後にもう1回注意点です。
どんな方法で覚えて行っても、必ず音声付きのテキストを使って、音と共に覚えてください。発音がわからないと、聞いても、言っても、伝わりませんので努力が水の泡になってしまいます。
④ 余裕があれば、語彙力をつける
ここまで聞いて、「なんか面倒だなぁ」と思った方。
大丈夫です。今は便利な時代です。今度こそ、本当にこれです!
- 翻訳アプリを携帯する
これでOKです。
言いたい事があれば、翻訳アプリで調べてください。出来れば、調べた単語は自分で発音して自分の言葉として伝えてください。伝わらなければ、文字を見せれば相手は必ずわかってくれます。
言葉はコミュニケーションのための手段に過ぎないので、翻訳アプリを使っても全く問題ありません。「英語でコミュニケーション取れるようになるには、必死になって努力しないといけない!」 なんてルールはありません。
たぶん、中国語でもヒンズー語でもアラビア語でも、英語以外の外国語であれば、何の抵抗もなく、翻訳アプリを使って、単語レベルで、会話しようとすると思います。何故か、英語の時だけ、日本人はストイックになってしまうのですが、英語も他の外国語と全く同じです。どんな方法でもコミュニケーションが取れれば良いのです。言葉は手段に過ぎません。
でもこうやって海外旅行で翻訳アプリを使って楽しかったら、是非次回の旅行までに少しずつでも単語を覚えて行ってみてください。きっともっと楽しいと思います。
ここまで、かなり安心できたと思います。少しでも、試してみたいと思ったら、是非やってみてください。あまり頑張りすぎないで、少しずつトライし、飽きたら休憩しましょう。また試してみたくなったら、その時再開してください。
⑤ 更に余裕があれば、リスニングの練習をする
この項目の最後に一つだけ難しいことをお話します。
- 文法は勉強する必要ない
- センテンスで話す、あるいは話そうとすることをやめる
- 翻訳アプリを携帯する
- 余裕があれば、語彙力をつける
- 更に余裕があれば、リスニングの練習をする
自分で話す言葉は、自分でコントロール出来ます。知っている単語だけ、覚えた単語だけを使って話していくことが出来ます。旅行に行った先で「注文する」とか「買う」とかであれば、もう何も問題ないはずです。
ところが、現地の人や外国人が話す言葉は、自分でコントロールする事が出来ないのです。例えば、「お薦めの料理を尋ねる」とか「道を聞く」とか「由来を聞く」とかです。質問に関しては、知っている単語で聞けば良いのですが、相手が答える時に使う、語彙・表現・文型やそのスピードは全くコントロールできません。
ここで一つの分かれ道です。
一つ目の考え方は、もう完全に割り切って考えて、「とりあえず自分の言いたいことが言えて、オーダーしたり買い物出来たりできれば十分」というのも完全に“あり”です。さっきも言いましたが、これが、中国語、ヒンズー語、アラビア語など他の外国語であれば、きっとすんなりと割り切れると思います。英語もその他の言語と同様に割り切って考える、全く問題ありません。
もう一つの考え方は、「せっかく少し話せるようになったから、多少なりとも相手の分かることも理解したい」、だけれども、「必死になって勉強はしたくない」と言う考え方。
大丈夫です!
でも少しだけ努力が必要です。
ポイントは二つだけ
- 難しい題材を選ばない
- 少しずつ継続する
1点目は、「難しい題材を選ばない」です。これまた日本人の傾向として、「難しすぎる題材を選ぶ」点があります。これは国民性と言うか、学校教育の影響と言うか、「勉強」と言うと「必死になって努力しないといけない」、「頑張らないと成果が得られない」と考える傾向があります。
でも、一般的に人間は、一度に複数の事をいきなり実行できません。一度に一つずつクリアしていく方が効率良いはずです。
ここでは、「リスニング力を伸ばしたい」訳なので、「語彙」や「文法・文型」が難しいものだと、意識が分散してしまって、「リスニング力向上」に専念できません。だから、「語彙」や「文法・文型」に関しては、「知らない物が無い」くらいのレベルが調度よく、効果が得られやすくなります。
もう1点は、「少しずつ継続する」と言う事です。
残念ながら、リスニング力は数時間や数日間、数週間で劇的に伸びる物ではありません。継続する必要があります。1点目で書いた考え方に基づいて、自分に合ったレベルのテキストを選び、毎日少しずつ続けていくことがポイントです。
でも、これはかなり忍耐力が要ります。
私がいつもお薦めしていたのは、ラジオ講座やテレビ講座です。私自身、日本で英語を身につけてきた中で、ラジオ講座がかなり役に立ったので薦めています。内容もそうですが、1回の学習時間が15分~20分、(テレビだと30分)程度なので、続けやすく、また、自動的に毎日/毎週、少しずつ継続していくことになります。(リアルタイムで聞けなくても、アプリで1週間はいつでも聞けます)
1年間継続できれば、かなりリスニング力が伸びると思います。同時に語彙・表現力も身につくので一石二鳥ですね。
まとめ
ここまで読んでいただいて、なんとなく「これなら出来そうだ!」と思ってもらえれば、非常にうれしく思います。多くの場合、「英語学習」と言うと、「必死になって勉強する」イメージがあり、「そこまでしてまで、英語を勉強したくない」って思われる方も多いと思います。でも、「ちょっとした言葉を使ってコミュニケーションを取る」、と言うように、目標設定の仕方を変えると、それほど大変な思いもせずに、目標到達可能です。是非試してみてください。
- 文法は勉強する必要ない
- センテンスで話す、あるいは話そうとすることをやめる
- 翻訳アプリを携帯する
- 余裕があれば、語彙力をつける
- 更に余裕があれば、リスニングの練習をする