AEONには多分15年くらい勤めていたんだと思う。20代後半から30代を過ごした会社で、ミュージシャン崩れの自分が初めて正社員として働いた会社なので、今でも一番愛着のある会社。でも、40歳になるくらいの時期に何となく行き詰まり感を感じて転職した。
転職しようと思った時は、英会話スクール以外の仕事をしようと思っていたんだけど、結果的には別会社で英会話スクールの仕事をすることになった。当時は、ITと言う言葉が出始めたころで、(2000年前後)、IT業界に転職してみたかった。
と言っても、「IT」とは何かもよく分かっていなかったので、何となくPCに関係した仕事をすれば良いと思って転職活動していたものの、技術者にはなれるはずもなく、縁あって、「IT」系のベンチャー企業が、新事業として英会話スクールを始めようとしていて、その立ち上げメンバーを募集している求人広告に偶然気づいた。それが次の転職先の、株式会社オデッセイコミュニケーションズ。
1. 株式会社オデッセイコミュニケーションズ
丸の内にオフィスのある会社で、主な事業は「MOS」の運営。「MOS」とは、「Microsoft Office Specialist」の略で、簡単に言うと、WordとかExcelとかPowerPointなどの検定試験で、入社当時に爆発的な勢いで受験者数が増えていた。
そのオデッセイコミュニケーションズが新事業として、英会話スクールをオープンしようとしていた。英国の最大手教育出版社である、Pearson PLC (当時はPearson Education PLC)が開発した「Direct English」の日本におけるマスターフランチャイジーとしてスクール運営をしていくと言うビジネス。
オデッセイコミュニケーションズの創業社長は、一橋大学~ハーバードビジネススクール~外資系投資銀行~ベンチャー企業起業と、絵に描いたようなエリートで、当然ながら英語も堪能。
英会話スクールを運営すると言う点では、既にAEONでほとんどの事を経験してきているので、スクールのコースカリキュラムを作り、料金設定し、予算を立てて、講師・スタッフを採用し、研修し、自分でも見込み客に対して営業活動して、レッスンも教え、企業契約を取るために法人営業をして、と一通り全ての仕事をした。チラシ配りとかも含めて。この手のことでどのように英語に関わってきたかと言うことは、AEONの時とほとんど同じなので、ここでは割愛して、AEONの時と大きく変わってきた事がいくつかあるので取り上げてみる。
- 英国Pearson PLCとの仕事
- 社外の外国人社員との折衝
- 取引先企業の担当者
- その他
1)英国Pearson PLCとの仕事
「Direct English」自体、英国Pearson PLCとのフランチャイズ契約だったので、 Pearsonの担当者とは日常的にやり取りをしていた。Pearsonとの仕事の中で英語面で大きかっったのはこの3つ。
① 文書
入社したのは、オープン直前だったので、最初にしなくてはいけなかった事は、Pearsonとの契約内容やDirect Englishと言う、「教材」「スクールシステム」「Philosophy」を理解する事だった。伝統的なイギリスの会社と言う事もあり、各種マニュアルが大量に揃っており、細かい契約書とともに細部まで読み込む必要があった。
また、当時はメールが普及してきていた時期で、イギリスとの仕事のやり取りは、日々メールのやり取り。AEONの時は、仕事上で英文を書くと言うことはそれほど多くなかったので、ReadingとWritingの比重は圧倒的に多くなった。
② ミーティング
Direct Englishは世界30ヵ国以上でフランチャイズ展開していたので、Pearsonにはエリアごとに担当者がいて、アジア担当者が3ヶ月に1回くらいの割合で東京に来ていた。
そこでミーティングをしていくのだが、AEONの時のミーティングとは大きく異なる点があった。AEONの外国人講師トレーナーやスクール現場の外国人講師とのミーティングは、「日本に住み働き、日本人とコミュニケーションをとることに慣れているネイティブスピーカー」とのミーティング。
Pearsonのアジア担当者は、日本に来るのも、日本人と一緒に働く、と言うか日本人と話すのもほぼ初めてと言うタイプ。なので、話の進め方が全然違うし、彼のペースでその場で資料を読みながら、話し合い、メモを取り、レポートを書く、みたいな事は、最初のうちは中々大変だった。
今更ながら、「仕事で英語を使うってこう言うことだったっけ?」みたいな感覚だった。これは、「英会話講師あるある」系の話で、いわゆる英会話スクールで教えている講師は、日本人講師に限らず外国人講師も、それほど実務経験がある訳ではない。
大体が20代の講師で、留学から帰ってきて何となく英語を使った仕事をしてみよう、的な発想で英会話講師になるので、テキスト以外の実践的な仕事上の英語を使ってきている訳ではない。
自分の場合も、Pearsonとの仕事が、所謂「英語での実務経験」的な位置づけになるので英語に対する取り組み方、と言うか使い方が、大きく変わってきた。どうしても講師としての発想が強いと、「正しい英語」「ミスのない英語」みたいな部分が大きくなるけど、実際に仕事上でディスカッションしたりする場合、スピードであったり、コンテンツであったり、熱量であったり、と言う部分の方が圧倒的に大きくなる。
この頃から、書く時も話す時も、あまり英語の間違いに気を使い過ぎないようになった。もちろん正確な英語で書こう、話そうとはするのだけれど、気にし過ぎないと言う意味。
③ 出張
長いこと英語を使って仕事をしてきたものの、自分の場合、あまり海外に行った事がない。留学も海外生活もした事がないので、1週間程度の海外旅行、しかもハワイとか、バリ島とか、を数回経験しただけ。海外出張というのもオデッセイコミュニケーションズの時が初めてだった。
イギリスのPearson本社で世界各国のDirect Englishマスターフランチャイジーが集まる会議があって1週間程度の出張に行ってきた。もちろんイギリスは初めて。
今でもよく覚えているけど、ヒースロー空港に近づいていき高度が下がってくると、赤茶色い一軒屋の屋根がたくさん見えてきて、「イギリスに来たんだ!」と実感した。シャーロックホームズ、チャールズディケンズ、Led ZeppelinにDavid Bowie、ピンクパンサーと、アメリカに憧れていたはずなのに、思いのほかイギリスへの憧憬の強さを改めて認識した。
Pearsonの用意してくれたホテルに各国からの参加者が前日から泊まっていくんだけど、ホテルのバーでPearsonの担当者がウィスキーを出してくれる。この1回の経験だけでは何とも言えないけど、「なんかイギリスぽいなぁ」と感じた。
この出張中に「英語が全く聞き取れない!」って事が2回ほどあったんだけど、そのうちの1回目が、このバータイム! いつもミーティングで会っているアジア担当者とか、他の国からの参加者とかは問題なかったんだけど、どういう立場の人だったか、スコットランド人が一人いた。
この人の言っている事が見事にわからない。楽しそうに色々話してくれるものの、何を言っているのかさっぱりわからない。ちょっと安心したのが、他の参加者の様子。彼らも全く分かっていなかった。お互いに顔を見合わせて、「何言っているの、この人?」的な表情。
ついにはアジア担当のイギリス人も「いやぁ、俺も何の話しているのかさっぱりわからない!」って。でも、酔っ払って、訳わかんなくなっているって感じではなかった。スコットランド人って、アクセント強いのかな?
さて、イギリス旅行の話じゃないので、旅の思い出はこのくらいにして、当然ながら出張のメインは、世界各国のDirect Englishマスターフランチャイジーが集まる会議。同じテキストを使いながら、それぞれの国で独自の手法を取っているフランチャイジー同士なので話が早い。共通の知識があると、語彙・表現も共有できるし、情報的に分かっている部分とわからない部分が明確なので話しやすい。こういう感じの仕事の話をする時が一番やりやすい。
ランチは毎日Pearson本社でのブッフェ形式で、美味しかったけど、英語の面では仕事上のディスカッションより、ランチタイムの雑談の方がずっと難しい。仕事上必要な語彙は日々使っていて、お互いの共通言語/語彙になっているけど、雑談となると、それぞれの興味や環境によって、話題の幅がずっと広くなる。知識的に足らなかったり、当然ながら知識のない分野の語彙力はない。
こんな中で親しくなったのは、よく同じグループでディスカッションしていたイタリア人とインドネシア人。それにしても、イタリア人とかドイツ人とか、本当に英語が上手い。当然ながら、一般的にという事で、個人個人で語学力は違うけど。
そして、この出張中に「英語が全く聞き取れない!」状態に陥ったのが、タクシーの中。Pearson本社での会議中は近くのホテルに泊まっていたんだけど、最終日はホテルの近くの駅から電車に乗って移動した。もはや駅の名前とかも覚えていない。
ホテルの人が呼んでくれたタクシーに乗って駅まで移動したが、このタクシーの運転手が言っている事が一言もわからない。なんかすごく気の良さそうな若いお兄ちゃんだったけど、一体何を言ってたんだろう。こっちの言っていることは問題なく分かっているようなので、行き先を伝えた後は、しばらく話を聞いていたけど、何言ってんだか待ったくわからなかったので、最後の手段として、一方的に話し続けることにした。
「日本からPearsonに仕事で来てこれから東京に帰るところだ。昔からイギリスのロックが好きでLed ZeppelinとDavid Bowieを崇拝している。ロンドンで1泊してから帰国するので、どこかのクラブに聞きに行こうと思う。シャーロックホームズも好きだ。」など、ひたすら話し続けたら、ニコニコしながら運転していた。
イギリス人と言っても、出身地や環境によって、色々な人がいるので、「わからない時はわからないもんなんだ!」と思った。例えば、日本語を真面目に勉強していた外国人が初めて日本に来て、渋谷の高校生が話している所を聞いても、きっと同じように聞き取れないんだと思う。
2)社外の外国人社員との折衝
Direct Englishと言うスクールは、丸の内にあった。橋大学~ハーバードビジネススクール~外資系投資銀行~ベンチャー企業起業と言う経歴の創業社長が、「質の良い客層」を狙って出店したから。
このDirect Englishと言うスクールでは、毎月のように外部のゲストスピーカーを呼んで講演会をしていた。社長の人脈から、Financial Timesの日本支社長とか、ヴァージン・アトランティック航空の日本副社長とか、色々な人を呼んでいた。
社長がコンタクトを取って依頼してくれるのだけど、事前の打ち合わせとかは私の担当になったので、社外の外国人社員と話す機会も多くなった。当然ながらメールのやり取りをして、電話連絡して、実際に対面の打ち合わせになるのだけど、やはり英会話スクールの外国人講師と話すのとは大分様子が変わる。
メールのやり取りも速いし、打ち合わせ時もペースが早い。それでも具体的な仕事の話なら何とかなるものの、例によって”雑談”になると本当に難しい。話題がその時々に注目されているトピックになる事が多い。日常的にニュースやスポーツ、エンタテインメント類など、幅広分野の知識と語彙力が必要になるので、どうしても受動的になってしまう。
この”雑談力”は、未だに難しいので、外国語学習者には永遠のテーマになるのかもしれない。
3)取引先企業の担当者
この時期は、スクール内で見込み客対応の営業活動、講師としてレッスン、管理者として採用、研修、教務責任者としてカリキュラムや新コース、講座内容の作成をしつつ、法人営業もしていた。
丸の内周辺の企業や外資系企業の取引先が多かったので、時には外国人管理者に対して営業に行ったり、研修報告に行ったりした。最初のうちは、「日本人相手とは違い、何か特別な方法をとらないといけないのではないか?」みたいに考えていたんだけど、実際には、どちらかと言うとやりやすかった。
と言うのも、比較的直ぐに決めてくれる事が多かったので、無駄な時間が少なかったし、相手の期待値もそれほど高くなかったのかなぁ。所詮英会話のレッスンだし、費用的にも数十万円の話だったので、あまり深く考えていなかったのかもしれない。
「英語を使って仕事をする」と言う観点で、書き出してみたものの、あまり強く印象に残っている事はなかったかもしれない。
2. 全研本社株式会社
丸の内のオデッセイコミュニケーションズには、多分5年弱くらい勤務していたのだと思う。Direct EnglishはイギリスのPearson PLCとのフランチャイズ契約だったんだけど、丸の内のスクールをオープンしてから4年目ぐらいに、PearsonがDirect Englsihのビジネスを、同じくイギリスのLinguaphone Group社に売却した。
当時のLinguaphone Groups社のCEOが、かなりアグレッシブや人で、オデッセイコミュニケーションズでのDirect Englishの売上げに不満で、オデッセイコミュニケーションズとのフランチャイズ契約を解除することになった。
そのため、Direct English丸の内校はクローズする事になった。半年くらいかけて徐々にクローズしてい木、契約した役務は全て提供した上、顧客層も良かったので大きなトラブルもなく、クローズすることができた。そして、Linguaphone Group社は新たに全研本社株式会社と契約し、全研本社が日本におけるDirect Englishの独占版権を持つ事になった。まぁ、この辺りの話はどうでもいい事なので、割愛するとして、自分も全研本社で働くようになった。
と言っても、実際にDirect Englishを使ってレッスンをするようになるのは、全研本社に入社してから10年近く経ってから。それまでは、当時全研本社が運営していた、Linguaphone Academy, Trinity, L-Oneと言う3つのブランドの英会話スクールを担当する事になった。
1)Linguaphone Academy, Trinity, L-One
英会話スクールと言っても、これまでのAEONやオデッセイコミュニケーションズの時とは、大きくビジネスモデルも社風も違うので、仕事の進め方が大きく変わったのだけど、ここでは英語の面に限って書いていくと、大きなポイントは次の5つ。
- 外国人講師の国内採用
- 研修
- レッスンマテリアルの開発
- トラブル処理
- Linguaphone Group との折衝
① 外国人講師の国内採用
AEONの時は基本的に外国人講師を現地採用していたので、採用自体にはそれほど関わっていなかった。毎月20-30人送られてくる新人講師を大宮セミナーハウスで研修していた。オデッセイコミュニケーションズの時は国内採用していたけど、丸の内校だけだったし、講師も安定していたので年間数人程度の採用だった。全研本社の場合、Linguaphone Academy, Trinity, L-Oneと言う3つのブランドで、札幌から福岡まで全部で20校以上あったし、外国人講師と日本人講師の比率が、外国人講師8対日本人講師2、くらいの割合だったので、日々講師採用に追われていた。
自分が入社した当時の全研本社のスクールは恐らくあまり印象が良くなかったのだろう。広告宣伝もあまりしていなかったし、HPのクオリティもかなり低かった。なので、応募者の質が非常に悪かった。
面接に呼んでも、びっくりするほど態度が悪かったり、高飛車に来る応募者が多いのには正直辟易した。
俺は時給5000円以下のレッスンは受けない。
とか。求人広告に時給2000円と出しているのも関わらずだ。そんな時は、3-4分で面接を終えるようにしていた。
If you are not interested in the position available now, we can stop here. Thank you for coming.
こう言って立ち上がると急に態度を変えて、慌てる応募者もかなり多く、きっとこれまで対応してきた他のスクールの担当者には、こんな態度でも通用していたのか、とびっくりしたものだ。
当時担当していた3つのブランドの中で、L-Oneと言うブランドは自分が立ち上げから関わっていて、HPのイメージなどもかなり良くしていたので、スクール数が増えていくにつれて徐々に応募者の質も上がってきた。
ちなみ私が面接をする時の流れはこんな感じ。
来校時に挨拶し、履歴書を受け取り、エントリーシートを記入してもらう。ここで第一印象を確認する。
- 会社説明
- スクールの特徴について
- レッスン内容について
- 労働条件
話している内容よりも、話している時の全体的な印象と話し方、発音の癖などを見る。
英会話講師としての仕事内容などはあまり聞かない。と言うか、興味なかった。大学での勉強内容や詠歌講師以外の職歴、趣味や興味のあることなどを聞いた。要するに、生徒から見て、話していて楽しいかどうかを見ていた。
英語力を見るテスト。ネイティブだから「英語力」がしっかりしているかと言うと、そんな事はない。大学入試の「国語」の試験で日本語ネイティブスピーカーが満点を取れるかというと、そんな事もないのと同じ。
実は、STEP1とSTEP2の時点で、採用するか、しないかは、ほとんど決めている。
印象はそれほど変わるものではないので、第一印象が悪ければ余程のことがない限り採用しない。また、会社やスクールの説明をしている時に、相手の理解度や労働条件に関してしてくる質問内容で、仕事をどう捉えているか、大体わかるので。
中には、「生徒と付き合うのは許されているのか?」とか「遅刻は何回まで許されるのか?」みたいな質問してくる応募者もいた。当然ながら、採用したりしない。
STEP3に関しては、「生徒の立場で考えて、この講師の話す英語がどのように聞こえるか」の1点のみ。正直言って、あまり自己紹介の話の内容は聞いていなかった。と言うのも、大体において自己評価が高く、自己アピールをしてくる応募者が多いので、面接する側の自分との評価とギャップが大き過ぎて、あまりいい判断材料にならない。
応募者の「英語の話し方」は非常に大きなポイントで、生徒から見た講師の「わかりやすさ」はこの「英語の話し方」の比重が高い。よくある生徒からの苦情で「〇〇先生のレッスンは分かりにくい」と言う時、講師のレッスン内容というよりも、講師の話す英語が聞き取れない、と言うことが多い。話すスピードと言うよりも、「話し方」そのもの。要するに口をしっかり動かし、滑舌良く話せるかどうか、と言うこと。
STEP4に関しては、応募者の「地頭の良さ」を見るもの。現職や前職の職責職務を聞いても、知っていることを羅列してくるだけなので、少し突っ込んだ質問をしていく。分かりやすい例だと、テキストについて聞いていく。小規模、中規模スクールでは市販のテキストを使っていることが多いので、使用しているテキスト名を聞いて、その特徴を説明させる。市販のテキストはAEONで散々教えていたのでほとんど頭に入っているから、シラバスや使用されている語彙の特徴、よく生徒が戸惑うレッスンなど、具体的に聞いていく。また、応募者の興味のある分野に関して、日本の歴史上の人物とか、著名人とか、時事問題とか、具体的な話をさせていく。履歴書内容から離れれば離れるほど、その応募者の素の部分が見えてくる。応募者からすると、きっと嫌な面接官だったと思う。
STEP5の筆記とテストは、後々トラブルになるのを避けるため。中には不採用になった事に対してクレームをする応募者もいるので、「総合的判断」の根拠にするもの。そのため、筆記テストは非常い難しい。と言っても、「外国人講師にとって難しい」と言う事。文法的な問題は、日本人講師からするとそれほど難しくないと思う。
多い時は1日8人~10人くらい面接していたので、本当に色々なタイプの人と話していたと思う。当然色々な国籍、出身地の応募者がいたんだけど、イギリス出張時に出会ったような、「全く聞き取れない!」みたいな人は一人もおらず、さすがに日本で生活しているだけあって、自然とわかりやすい英語を話すようになったんだと思う。
この面接の経験は、「色々なタイプの人と話す」と言う実践経験を積む意味もあって、その中で相手の言った表現や文型が、「あ、こういう使い方をするのね!」って思うことがよくあった。特別難しい表現とか、変わった表現といか言うことではなく、普段自分ではあまり言わない語句や使わない文型と言う意味。さすがに1日10人前後相手に面接すると疲れたけど、結構楽しい経験だった。
② 研修
新人研修は、AEONやオデッセイコミュニケーションズ時代にも散々やっていたんだけどし、当時から自分で研修プログラムや研修資料を作っていたので、特別真新しい事はない。ただし、AEONの時は泊り込み1週間の缶詰め研修だったから、基本的に毎回同じスケジュールで研修をしていたのに対し、全研本社のスクールでは国内採用でパートタイム講師が多かったので、皆バラバラのスケジュールで設定をする。バックグランドが異なり、研修進度の違う研修生を同じグループで研修していくので、かなりフレキシブルに進めていかないと行けなかった。
全研本社で、Linguaphone Academy, Trinity, L-Oneと言う3つのブランドの英会話スクールを担当していた時期に、研修に関する考え方、と言うか、「講師の教え方」に関する考え方がだいぶ変わってきた。
AEONやオデッセイコミュニケーションズで講師研修を実施していた時は、「教え方を細かく指定して、決まった教え方で教えさせる」と言う事を徹底していた。それは、テキストに沿って決められたスケジュールで教えていくタイプのスクールだったからでもある。それに対して、全研本社で運営していたスクールは、よく言えばフレキシブル、悪く言えば大雑把なタイプだった。なので、ある意味「基本的なコンセプトとレッスンの流れを教え、後は講師が自分達が自分で考えて工夫しろ」みたいな方向性になった。
また、3つの違うタイプのブランドを管理していて、スクールも札幌から福岡まで点在していたので、出張回数も多く、首都圏のスクールで採用した講師の研修は、ほぼトレーナーに任せるようになっていた。地方校は自分で採用から研修まで自分で全部するしかないので、1週間滞在したり、3日連続の研修を2回に分けて実施したり、つまり、あまり細かいところまで教え込んでいく時間がなかったので、自然と大雑把になっていったような気がする。
外国人講師トレーナーにしても、AEONの時のように毎回1週間缶詰で一緒に研修していれば、研修内容や方法も細かく管理できるのだけれだ、自分が出張中で不在の時にトレーナーが一人で研修するので、段々と方向性がずれてくる事になる。段々と、「それはそれで良いか!」と思うようになってきた。
と言うのも、スクールのシステムが根本的に違ったので、ある意味細かく管理しようがなかったから。この辺りは、次の「レッスンマテリアル」の個所で説明する。
③ レッスン用マテリアルの開発
当時、全研本社で運営していた3つの英会話スクールブランド、Linguaphone Academy, Trinity, L-Oneは、顧客層や集客方法の違いから3つのブランドに分けていたけれど、カリキュラムや教え方は同じだった。だから講師達も時々相互にヘルプに行っていた。
AEONやオデッセイコミュニケーションズ時のDirect Englishでは、テキストの進み方が決まっていて、レッスンもテキストに沿った形で進めていたのだけれど、Linguaphone Academy, Trinity, L-Oneに関しては、「教材」と「レッスン」は全く別物だった。
「教材」は完全にセルフスタディ(自習)用にデザインされた、Linguaphoneの教材を使用し、生徒は自宅で自分のペースで学習する。レッスンはスクールで受講するのだが、所謂テキストは使用せず、ロールプレイカードやワークシートの様なレッスン用の「マテリアル」を使用し、かなり自由に話させるタイプのレッスン。レベル分けは、初級から中上級まで全4レベルと、かなり大雑把な分け方で、定員10名のグループレッスン。レッスンは予約制で回数制限無し。と言う感じで、かなり「怪しい」雰囲気の漂うレッスン形態。
もし自分自身が、セルフスタディ用の教材で英語を身につけていなかったら、しかもLinguaphone教材を実際に使っていなかったら、きっとこのスクールタイプは、「怪しいスクール」と分類づけて、近寄らなかっただろう。
実際に自分自身で実証していた訳なので、「良い教材で自習する」と「英語を話す機会を持つ」の組み合わせは非常に有効だと考えていた。実際に凄い勢いで英語力を上げている生徒もいた。しかしながら弱点があって、「学習効果の個人差が大きい」と言う事。
大多数の生徒は「良い教材で自習する」を実践しない。なので「英語を話す機会を持つ」ためにレッスンを受ける。回数制限無いので、「何回も何回もレッスンを受ける」。当たり前だが、レッスンだけ受けていて、「良い教材で自習する」がなければ上達しない。
これは非常にもどかしい状況だったので、「レッスン用のマテリアル」を改善して、レッスンだけ受けていても、ある程度は上達出来るようにする事にした。正確には、「改善することを計画した」が正しい。
当時講師の研修とかを担当させていた、外国人講師トレーナーが2-3人いたのだが、彼らは「単にLinguaphone Academy, Trinity, L-Oneで教えるのに慣れている講師」であって、教材やカリキュラム、シラバスに関する知識や経験、教え方のコンセプトなども持っていなかった。
スクール勤務の講師もそうだったけど、「管理者が不在の状態で自由にレッスンをしていた」と言う状態だった。なので、恐らく2年くらいかけて、語彙レベル、文法レベル、をスクールのレベルに合わせて決めて、Functionを設定し、少しずつレッスン用のマテリアルを作り直した。
と言っても、マテリアル作りにそれほど時間を掛けられた訳ではないので、外国人講師トレーナーと打合せをして指示を出し、途中経過を報告してもらい、改善点を伝えると言うことの繰り返しだった。
と言うのも、AEONに勤務していた時は「教務課の責任者」と言う位置付けだったので、ある意味、レッスンや講師、テキストに関することだけを考えていれば良かったのだが、オデッセイコミュニケーションズや全研本社では事業部長という立場だったので、全体的な収支を見る必要があり、レッスン用のマテリアル作りに掛けられる時間は限られていた。
全研本社の外国人トレーナー達が、マテリアル作りに苦労していた一番の原因は教務面に強い管理者がいなかった事だけど、もう一つの原因は日本人講師が少なかったこと。AEONだと全講師に占める日本人講師の割合は恐らく40%~50%。それに対して全研本社では、全講師に占める日本人講師の割合は5%程度。そのほぼ全員がパートタイム講師だったので、マテリアル作りに関与していなかった。
一般的に日本人講師は、自分自身学校教育で英語を学んで来ているので、日本人学習者が「何を」「どの順番に」学び、(特に初心者が)「何を難しく感じ」、「どんなところで躓くのか」を把握している。なので、レベルごとに押さえるべき語彙や文法事項を感覚的に身につけていることが多い。
だから、日常的に日本人講師と共にレッスンをして、細かく情報交換してきている外国人講師は比較的、良い語彙レベル、文法レベルの感覚を掴んでいることがあるけど、外国人講師だけ教えている環境でしか教えたことのない講師は、思いっきり的外れな事をしてしまうことがある。
そこで、出張などで不在がちになる自分の代わりに、外国人講師トレーナーと一緒にマテリアル作りをサポートする日本人講師を付けることにした。と言っても、私が不在だと、日本人講師は外国人講師トレーナーに言いくるめられてしまう事が多く、あまり効果がなかった。
それでも、約2年くらいかけて、レッスン用マテリアルを全面改定できたのは、AEONやDirect Englishでコース設定をしていた時と比較して、レッスンや教え方に対する自分の考え方が、かなり変わってきたから。
全研本社に入社して、初めてLinguaphone Academyのスクールへ行き、レッスンを見て、ラウンジで講師と話す生徒を見て、ある意味びっくりした。AEONやDirect Englishの初心者と比べて、よく話せていたから。
正確に言うと、「発言回数が多い」が正しい。話している英語はかなりブロークンで間違いだらけだし、外国人講師の話している英語の意味を取り違えていることが多い。だから、決して「英語力自体が高い」と言う訳では無い。それでも、「話そう」とする、意欲と言うか意識は、Linguaphone Academyの生徒の方が圧倒的に高かった。
これは色々な理由があるのだけれど、主なポイントはこの5つ、
- テキストベースのレッスンをしていない
- レッスン中にあまり「文字を読まない」
- 講師が生徒の英語の間違いを直さない
- 1レッスンの時間が90分
- イベントが多い
一つずつ見ていくと、
- a. テキストベースのレッスンをしていない
-
テキスト中心のレッスンをしていくと、生徒はテキストに頼る。講師もテキストに頼る。講師も生徒もテキストを見てレッスンをする。テキストの内容をしっかりと練習するのは大切だし、有効だけど、あまりテキストに頼りすぎると、テキスト以外の事は何も言えなくなってしまう。
全研本社の3つのブランドのスクールで受講していた生徒は、テキストがない状態で「自分の言葉で話す」と言う事に慣れていて、話すことを恐れていなかった。英語の間違いとかもあまり気にしておらず、「ミスを恐れる」と言う事がなかったように思う。
- b. レッスン中にあまり「文字を読まない」
-
a.に関連しているのだけど、レッスン中に「レッスン用マテリアル」を使用しているとはいえ、所謂テキストのようなものではない。講師もほとんど板書のような物はしない。なので、文字を見ない状態で、「聞く」「話す」と言うことを常に実践していた。
やはり日本人にとっては、「文字の存在」は大きく、文字を見ないと安心しない、不安を感じる、と言う生徒が多い。なので、文字のない状態になると、全く自信がなくなってしまう。この点、全研本社のスクールで受講していた生徒は、文字がない状態でもそれほどストレスを感じず、積極的に発言できたのだと思う。
- c. 講師が生徒の英語の間違いを直さない
-
私が入社した頃の、LInguaphone AcademyやTrinityと言うスクールでは、講師はレッスン中に生徒の英語の間違いを一切直していなかった。なので、生徒は自然と「間違いを恐れる」と言う性質を忘れてしまっていたのだと思う。とは言え、間違った表現を100回繰り返したら間違ったまま覚えてしまうので、「大きなミスは、多少直すように」と若干軌道修正した。
それでも「多少」のレベルだったし、そもそもテキストが無い訳なので明確なシラバスがあった訳ではない。一般的に日本の英会話スクールの場合、文法シラバス(または文法よりの)のテキストを使っている事が多い。当然ながら文法的なポイントがレッスンの目的になり、その文法的なポイントに関する間違いは必ず直す。
「間違いを直す/直さない」の是非を言っているのではなく、レッスンの方向性が違うだけの話し。ただし、生徒のこの「積極性」にはびっくりした。とは言え、このやり方だけだと、「ブロークンな英語でなんとなくコミュニケーションが取れる」と言うレベルで留まってしまう事が多い。
- d. 1レッスンの時間が90分
-
意外と大きなポイントだったのが、1回のレッスン時間。一般的な英会話スクールのレッスン時間は40分とか50分の事が多い。その限られた時間内で、どれだけ英語力をアップできるか、と言う事に集中する訳だけど、Linguaphone AcademyやTrinityと言うスクールは90分レッスンだった。
これはかなり違う。レッスンの流れは大体どこでも同じようなケースが多い。最初の5分から10分は、挨拶をして雑談をする事が多い。そうすると、40分レッスンなら残り時間は30分。50分レッスンなら残り時間は40分。次にテキストに入って、テキストの内容に関して語彙や文系を中心に理解度を確認しながら、練習していく。
レッスンの最後の5分程度は、簡単なレビューや次回までの課題、雑談系の事をして時間調整する事が多いので、実質のレッスン時間は40分レッスンなら25分程度、50分レッスンなら35分程度。1週間に1回のレッスンであれば、決して十分な時間ではない。
これが90分レッスンだと75分になる。この違いは大きいので、1回のレッスンで吸収できる量はずっと多くなる。4-5人の少人数クラスで40分/50分レッスンにするか、10人定員のクラスで90分レッスンにするか、ビジネス的な観点でレッスン効率を考えた場合、どちらでも同じになる。
乱暴な言い方をしてしまうと、4-5人の少人数クラスで40分/50分レッスンは「正確さ」を目的とする場合に適している。10人定員のクラスで90分レッスンは、「積極性/流暢性」を目的とする場合に適している。そのため、Linguaphone AcademyやTrinityには、このスタイルが合っていたのだと思う。
- e. イベントが多い
-
Linguaphone Academyでは、毎月のようにイベントを実施していた。色々なタイプのイベント実施していたが、結局のところ、講師と生徒が飲食しながらゲームしたりする、みたいな事。話している内容はレッスン中とそれほど変わらなくても、やはりクラスルーム外で複数の外国人講師と自由に話す機会を定期的に持つことは「積極性/流暢性」を向上させるのに役立ったのだろう。
これまで、AEONやDirect Englishでは、比較的かっちりとしたレッスンを実施してきていた、させていた自分としては、ちょっとした驚きだったし、レッスンとか教え方に関して考え方が変わるきっかけになった。
外国人トレーナーたちに「レッスン用マテリアル」の開発をさせるにあたり、これまでよりも「語彙力」を重視するようになった。と言うのも、一般的に日本人学習者の場合、一番の弱点は初級・中級・上級などレベルに関わらず、「語彙力」だから。
大体において、英会話スクールでも学校でも語学学校でも、文法重視が行き過ぎているように感じる。特に初心者から中級者に関しては、文法力よりも語彙力とリスニング力を重視した方が、その学習目的に良く合っていると思うようになった。
④ トラブル処理
ここまでの仕事内容、①採用、②研修、③教材開発などは、英語に関する面では、講師トレーナー時や教務科責任者時とあまり変わらない。当然ながら、事業全体の収支で合ったり、集客や出店計画であったり、社内外との連携で合ったりなど、英語以外の面では仕事内容が大きく変わったのだけれど、英語に直接関わる面で、この時期に増えていたのがトラブル処理。
私が全研本社に入社した当時、スクール勤務の講師の状況は決していいとは言える状態ではなかった。講師の管理者が不在の状態で、正確には管理者が英語教育の事をあまりよく知らず、英語でのコミュニケーションも十分に取れない状態だったので、勤務期間の長い外国人講師が、ある意味自分たちに都合のいいように、好き勝手な制度を作っていた。
また、レッスンの質以前の問題として、生活態度や勤務態度が、「顧客サービスを提供する」とか「企業で社員として勤務する」と言う観点からかけ離れている講師が多数存在していた。レッスンの質のみならず、生活態度や勤務態度の面でも、これまで見過ごされてきていた事を、悉く、注意指導し始めたので、かなりの軋轢が生じた。
AEONの時やDirect Englishの時は、「みんなで話し合い、意思を共有して、一緒に前進する」みたいな感覚でマネージメントをしていたのだけれど、私が入社した当時のLinguaphone AcademyやTrinityなどでは、とてもそんな悠長な事は言ってられなかったので、思いっきりトップダウンの手法を取るようになった。
と言っても、相手の話を全く聞かない、と言うことではない。意見や考えは聞き、同意できることは同意するけれど、最終的に責任を持つのは自分なので、どんな意見が出たとしても、自分が決める。そして自分が決めた事に従ってもらう。
当たり前と言えば、当たり前の事だけれど、複数のネイティブスピーカーのグループに対して、圧に負ける事なく、自分の意見を押し通す、と言うことはそんなに簡単な事ではない。少なくとも、自分の英語力レベルでは簡単な事ではなかった。
その時に役に立ったのは、「相手のペースやスピードに付き合わずに、自分のペースで話す。」と言うこと。どうしても外国語で話していると無意識のうちに「相手のペース、つまりネイティブスピーカーのスピードに、無理してでも合わせないといけない」、と考えがちだ。でも、たまたま英語と言う言語を使ってコミュニケーション取っているだけで合って、共通語が日本語なら日本語で話せば良いだけの話だ。「英語で話している」と言う時点で、十分相手に考慮している訳なので、自分のペースで話して悪いわけがない。
ある意味、この時期を通して、「外国」とか「英語」とかに対する「憧れ」的な要素は完全に消えていた。幼少期から少中学生時代にに憧れた「テレビドラマ」「洋画」「洋楽」の世界。FEN(AFN)で感じた「塀の向こうのアメリカ」。「インターナショナルパーティ」で出会い交友のあった軍人から海外赴任社員など、色々なタイプの外国人。
嫌な奴もいたけど、それでもやっぱり「いつか海外に行ってみたい。」「いつか海外に住んでみたい。」「ネイティブスピーカーのように話せるようになりたい。」と言う、「憧れ」の気持ちは常に持っていたのだと思う。だから、ネイティブスピーカーには自分の英語がどのように聞こえるのか、などと言う事が気になって仕方なかったのかもしれない。
それが、この「トラブル処理」を一人で対応していた時期に、すっかりなくなっていった。ある意味、これは健全な発達という事なのかもしれない。「ネイティブスピーカーには自分の英語がどのように聞こえるのか」を全く気にしなくなり、「英語が間違っていようが、発音が聞き取りにくい、とか、どうでも良い」、と言うような気持ちで話していた。
結局、自分が伝えたい事を伝えるために英語を話し、自分が進みたい方向に社員を動かすために英語を話している訳で、英語力を評価してもらいたい訳ではない。この、ごく当たり前のことに気付き、実践できるようになったのが、英語力の面でこの時期一番大きく変わったことだと思う。
⑤ Linguaphone Group社との交渉
オデッセイコミュニケーションズでPearson PLCと仕事をしていてた時も、社外の人と英語を使って仕事をしていた。当初はその延長線上で仕事上のやり取りをしていたので特に特別なことはなかったのだけれど、途中から雲行きが怪しくなってきた。
これは、日本側の問題ではなく、英Linguaphone Group側の問題で、当時のLiguaphone Group CEO が不正取引をしていたことが発覚した。全研本社も多少、(と言ってもそれなりの金額だが)損失を被り、イギリス側とかなりやり合う結果になった。
当時自分は事業部長として勤務していたので、自分の上に社長がいた。この件は訴訟問題に発展するようなケースになっていたので、イギリス側CEOと日本側の社長が話し、自分は通訳として入る事が多かった。
通訳は20代の頃、少しだけ芸能通訳の経験はあったけど、その時はかなりカジュアルな通訳で大雑把なものだった。今回はかなりの金額が動く話しで、細部まで気を使う必要がある状況での通訳だったのでだいぶ様子が違う。
どちらにしても、自分で直接英語で話す時と比べると、他の人が話す日本語を英語で相手に伝えることは本当に難しい。やはり、英語と日本語では話の進め方が変わってくるので、社長が言う日本語を直訳して英語で言っても、社長が意図した事は伝わらない。とは言え、あまりに意訳すると、社長からクレームが入る。
この感じで2、3回交渉を実施した段階で、事前の社内打ち合わせの時間を十分に取るようにした。事前に相手側の言ってきそうな事を数パターン想定して、社長に対応法を考えてもらい、それを英語で相手に伝えるにはどのように話すべきかを社長に説明した。これを数回繰り返すと、少しずつ通訳がやりやすくなった。自分の英語の問題というよりも、社長が「英語圏の人と話す時の話の進め方」を掴んできたからだと思う。
この状態が2年くらい続いたのだと思う。最終的にはイギリス側で当時のLinguaphone Group CEOの不正が発覚し、退任になった。その後任としてCEOに就任したのが、現在のLinguaphone Group CEOで、以前Pearson PLCで勤務していた人間なので、彼とはオデッセイコミュニケーションズ時代から知っている仲だった。
当時、自分も全研本社の子会社で代表取締役になっていたので、「過去の事は以前の代表同士の問題なので、自分達は前向きに一緒に仕事をしていこう」と、よく二人で話していた。この頃、全研本社で運営していた3つのブランド、Linguaphone Academu, Trinity, L-One と言う英会話スクールをクローズして、新ブランドとして、Linguageと言う英会話スクールを立ち上げた。
2)Linguage
全研本社で勤務していたのは恐らく17-18年くらい。最初の10年くらいは、Linguaphone Academy, Trinity, L-One と言うスクールを運営していた。このスクールは当初非常に業績が良かったのだけれど、時の流れについて行けず、業績が悪化していた。最後の1年くらいは、縮小、縮小の連続であまり楽しいものではなかった。
その中で新しいタイプのスクールと言う事でLinguageと言うスクールを立ち上げた。当時の全研本社は教育関係の会社からIT企業に変貌を遂げていて、「集客はネット集客一本でする」と言う、当時としてはかなり画期的なスクールだった。
一般的に英会話スクールを運営するにあたって、経費の中だ一番重いのが、「広告宣伝費」、次にテナントとして入る物件の「賃料」。社会人対象のスクールなので都心の駅前に作らないと行けない。そして、あまり見すぼらしいビルには入れない。どうしても賃料が高くなってします。もう一つが「人件費」だが、これは英会話スクールと言う「箱物ビジネス」をしているとやむをえない部分かもしれない。
とにかく、「広告宣伝費」が圧倒的に重い。TVCMをやって、交通広告をやって、雑誌やテキスト類などの紙媒体に出稿し、チラシ配りもする。これを自社でネット集客することによって大幅にコストカットが出来た。
さらに、オープン当初は新宿駅前の自社ビル内にスクールを作っていたので、賃料もあまり気にする必要ない。(当然ながら払っていたが)と言うことで、他校に比べて「圧倒的に安い」料金でレッスンを提供でき、しかも同業他社が1年契約前払いだったの対し、「完全月謝制」を打ち出した。
IT企業なのでネット上のイメージ戦略も得意中の得意なので、一気に拡大できた。そのLinguageで使用したテキストが、Direct English。オデッセイコミュニケーションズの時はビジネス的に成功する事ができず、また全研本社でも当初はLinguaphone Group側の問題から訴訟問題寸前まで難航した経緯があるDirect English がついに日の目を見る事ができた。
前述したように、現在のLinguaphone GroupのCEOは、彼がPearson PLCで営業職の時からの付き合いだった旧知の仲で、自分も代表取締役になり決裁権を持っていたので、非常に話が早かった。業績も良かったので、日本でのDirect Englishの使い方に関しては自由に使わせてもらっていた。
Direct Englishに関しては、別のカテゴリーで改めて書くとして、簡単に言うとその特徴は、①しっかりとしてシラバス、②非常にauthenticな題材、③役者が演技した本格的な動画教材、などが挙げられる。本来セルフスタディ用のマテリアルなのだが、所謂英会話スクールに通うタイプの学習者が自分一人で自宅でセルフスタディを続けることを期待するのは難しい。
なので、ほんの少しだけ予習と復習すれば成果が出るようにレッスンの仕方を工夫した。今でこそ当たり前になっているようだけど、動画と音声を組み込んだプレゼンテーションをモニターに映し出してレッスンをするスタイルは当時としては画期的だったと思う。
英語に関しては、事業部長の頃とあまり変わらない。主にはこの5つ。
- 外国人講師の国内採用
- 研修
- レッスンマテリアルの開発
- トラブル処理
- Linguaphone Group との折衝
Linguageはオープン直後から急成長したので、①採用、②研修に関しては、日々戦いのように実施していた。不思議な事にスクールのHPや採用ページが洗練されてきて、スクール数が増えて来ると応募してくる講師の質が大幅にアップした。以前Linguaphone AcademyやTrinityで散々苦労した講師トラブルも減少し、非常に良い時間を過ごす事ができた。
③レッスンマテリアルの開発に関しても、そもそも素になるDirect English自体が非常に良く出来たテキストなので、Linguageのレッスンスタイルに合わせるだけで、その後は実際にレッスンを進めながら、講師のフィードバックを素に随時アップデートしていたので非常に簡単だった。
⑤Linguaphone Groupとの折衝に関しても、気心知れた相手がCEOだったし、Linguageの業績も良かったので、非常にスムースだった。日々メールのやり取りでコミュニケーションを取り、3ヶ月に1回くらいのペースでCEOが日本に来るのでミーティングを実施し、そこで、Direct Englishのアップデートのためのフィードバックをする、と言う日々が続いた。
順調に進んでいたので、Linguaphone Groupのコンフェランスも自分で行くのではなく、次を任せようと思っていた部下にいかせたくらい余裕があった。このまま、全て順調に進んでいくと思っていたら、大きな落とし穴が待っていた。
ここまで、④トラブル処理もほとんどなかったのだけれど、いきなり襲ってきたのが、コロナ騒ぎ。当初はSARSの時のように、外国で起こった騒ぎが一時的にクローズアップされている程度に考えていたのが、一気に大問題に発展し、交通機関が止まり、飲食店が休業し、非常事態宣言が出るような大問題に発展した。
衣食住や公共交通機関など、生活の基本中の基本が揺らぐ事態になれば、「英会話スクール」のような、「余暇のようなもの」などひとたまりも無い。まして、Linguageのように「完全月謝制」であれば、休会・退会すれば良いだけの話なので、一気に生徒数は減り、新規入会者数はほぼゼロになり、業績は大幅に悪化した。
こうなると、「箱物ビジネス」の悲しさか、どうしようもない。生き残るためにはコストカットしかない、縮小に次ぐ縮小で、スクールをクローズする。。当然ながら、講師も余ってくる。講師との契約を終了しないといけない。
残念ながら、定年退職前の最後の仕事は、大幅なリストラになってしまった。ここでの仕事は全員に対して、事情を説明し、契約の終了を伝える、と言う非常にやりたくない仕事。状況を理解し、「残念だけど仕方がない」、と納得してくれる講師もいれば、感情的になり、話し合いができない講師もいた。毎日毎日リストラのための面談を実施し、なんとかスクールとして採算の取れるレベルまで縮小して定年退職した。
このリストラのための面談に関しては、「英語力」とか「異文化コミュニケーション」とか「交渉力」とか、正直言って全く関係ない。結局、皆それぞれ自分の生活が掛かっているし、会社の都合など関係ない。それが当たり前だと思う。何も、相手を論破しようと思って話している訳ではない。
20代の頃、音楽で生計を立てるため、アルバイトの一つとして始めた英語・英会話講師の仕事を、気づいてみれば、35年以上続けていた。最後の最後で、何か運命の悪戯的な、想定外に事態に遭遇し、思い描いていた流れとはかけ離れてしまったけど、この間数千人以上の生徒に直接教え、数千人以上の日本人講師、数千人以上の外国人講師と一緒に英語を教えてきた。
幼少期から学生時代に憧れていた「外国」「外国語」「外国文化」、ある程度語学力を身につけ、いろいろ体験し、現実を直視し、憧れの部分はだいぶ減ったけど、やはり外国語を使って直接コミュニケーションを取ることの素晴らしさは何にも代え難い。
もし、「なんとなく英語を勉強してみたい」とか、「どうしたら英語を身につけられるのだろう」と言う気持ちで、このサイトに辿り着いたのであれば、英語を勉強始めるきっかけになってくれたら嬉しいと思う。