日本の英会話スクールはかなり特殊なスクールになります。他国の語学スクールの場合、目的が仕事や留学の場合が多く、比較的日本の専門学校に近いタイプが多いようです。日本の場合、英会話スクールの顧客層のマジョリティーが趣味・習い事のタイプになります。
このサイトは「英会話の教え方」「英語学習方法」をメインとするサイトですが、この「英会話の教え方」と「英語学習方法」の両方の面から、英会話スクールを理解する事が大切だと思いますので、主要なスクールの特徴を説明しますが、まず最初に「英会話スクールとは何なのか?」と言うことを考えてみましょう。
ここで紹介する「英会話スクール比較」は同じような題材を扱った他のサイトと大きく異なります。私自身が35年以上の講師経験を持ち、日本最大手と言えるAEONで講師トレーナー、教務責任者として10年以上勤務し、その後、5つの別ブランドで事業責任者として、数千人以上の外国人講師と数千人以上の日本人講師を採用・教育し、直接間接的に数万人以上の受講生の学習状況を見て来ました。詳細は他のカテゴリーの記事に書いてあります。
また、当然ながら、英会話スクールビジネスモデルも熟知しています。このサイトの「英会話スクール比較」は、内部の人間から見た辛口の比較だとご理解ください。
具体的なスクール紹介の前に基本的な比較ポイントを説明します。
1. 比較ポイント
英会話スクールを比較する場合の一般的な比較ポイントを簡単に説明します。
- 場所
- 料金
- レッスン形態
- レッスン内容
- その他
それぞれ簡単に見ていきます。
- ① 場所
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ある意味これが一番大切になります。英会話スクールに通う場合、毎週1回か2回継続して通います。社会人の場合、勤務先から自宅までの経由地で出来るだけ回り道をしなくてもすむ場所を選んだ方が良いでしょう。暑い日も寒い日も雨の日もあります。あまり気が乗らない時もあるでしょう。不便な場所を選ぶと挫折する可能性が高くなります。また、スクールの入っているビルやスクールの内装や雰囲気が自分にとって居心地が良いかどうか、なども大切です。
- ② 料金
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料金に関しては次に説明しますが、英会話スクールも当然ながらビジネスとして運営しているわけなので、採算が取れないような料金設定はしません。極端に安い場合や高い場合は理由があります。スクールの立地や雰囲気、レッスン形態などと照らし合わせて総合的に判断すると良いでしょう。
- ③ レッスン形態
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レッスン形態とは、1クラスあたりの定員、1回のレッスン時間、講師が同じか変わるか、予約制か固定制か、などです。レッスン形態は料金と密接な関係があるので、自分の中での優先順位をはっきりと決めておきましょう。アパートやマンションを探す場合と全く一緒です。「広さ」「古さ」「駅からの距離」「内装や設備」など、家賃と照らし合わせて、妥協できる部分と出来ない部分を明確にしておきましょう。
- ④ レッスン内容
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レッスン内容とは、どのようなテキストを使ってどの様な講師がどの様な教え方をするのか、と言う点です。英会話スクール毎に「メソッド」を謳っている場合もあると思いますが、専門家でない限り違いは分からないと思います。正直なところ、あまり気にする必要はないと思います。
- ⑤ その他
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スタッフのサポートとか、イベントとか、セミナーとか、付帯要素があると思います。これらの優先順位が高ければ、レッスン形態に加味して比較検討してみてください。
極めて一般的な説明をしてみましたので、次に辛口の説明をします。
2. 英会話スクールのビジネスモデル
分かりやすくするために、ものすごく単純化して説明します。
1. 収入
基本的に収入源は以下になります。
- 授業料収入
- 入学金
- テキスト代
- その他
- ① 授業料収入
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一般的な英会話スクールは、1年コースとか6ヶ月コースなどで「前納制」を取っていると思います。一部のスクールで「月謝制」のスクールがありますが、中には「月謝制」と言いながら「3ヶ月まとめて前払い」とか「10ヶ月以内に退会すると違約金が掛かる」または、「入学金が高い」など、それなりの理由があるところがあります。比較する時は、よく計算する様にしてください。
この授業料収入が主要な収入源になります。
- ② 入学金
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恐らく大多数の英会話スクールは「入学金」として2万円から3万円程度、入学時に掛かっていると思います。後ほど簡単なシミュレーションをしますが、1ヶ月に数十人入学するようなスクールであれば、それなりの収入源になります。また、キャンペーン時に割引やオフにする事も出来るので、便利な存在です。
- ③ テキスト代
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英会話スクールが所謂市販の教材を使用している場合は、実費で販売しますのでほとんど利益になりません。出版社からの卸値は75%くらいですが、市販価格が数千円ですので一人当たり数百円程度の利益にしかなりません。規模の大きめのスクールは「オリジナルテキスト」を使用していると思います。オリジナルテキストの場合、開発経費は掛かりますが、社員の人件費2-3人分半年間くらいで出来ます。その後は印刷費等だけですので、販売価格がほとんど利益になります。テキスト代2万円から4万円程度で販売すると入学金と同程度の売上になり、利益率も良くなります。テキスト代は新規入会者だけでなく、既存生徒が契約更新した理、コース変更した場合にも発生します。
- ④ その他
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イベントや特別セミナーなどの売り上げですが、多くのスクールは「赤字にならなければOK」くらいの感覚で扱っていると思います。
簡単なシミュレーションをしてみましょう。
1ヶ月の入会者数が30人程度のスクールがあるとします。まず単純計算で新規入会者からの売上を計算します。
項目 | 金額 | 入会者数 | 合計金額 |
---|---|---|---|
授業料 | 300,000円 | 30人 | 9,000,000円 |
入学金 | 30,000円 | 30人 | 900,000円 |
テキスト代 | 20,000円 | 30人 | 600,000円 |
合計 | 30人 | 10,500,000円 |
2. 支出
こちらも分かりやすい様に単純化します。
- 賃料
- 人件費
- 広告宣伝費
- その他
- ① 賃料
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都心のスクールは非常に高くなります。駅からあまり遠くなってしまうと集客力が落ちるので基本的には駅から徒歩5分程度の範囲が目安になります。私が新宿で働いていた時期で坪単価3万円前後でしたので、60坪程度の物件だと180万円くらいになります。管理費込みで200万程度でしょうか。
- ② 人件費
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1ヶ月の入会者数30名で1年コースだとすると単純計算で年間入会者数360人。1年後に継続する人が50%だとすると生徒数480人。(実際にはこんな単純には出来ません。)週6日稼働とすると週1回のペースで1日80人来校します。定員4人だとすると1日20レッスン、ほとんどの人は会社帰りに来校するので6時スタート、7時スタート、8時スタートで割り振ると同時間帯で必要なレッスン数は6レッスン程度。週5日勤務のフルタイム講師で計算すると7人強必要になります。大卒ネイティブ講師のフルタイム講師相場が30万円だとすると、社会保険料と交通費入れて大体36万くらいですね。フルタイム講師で350万程度、パートタイムで必要な時間帯を埋めると講師の人件費で400万くらいかかります。同じ要領で日本人スタッフをフルタイム社員2人とパートタイムで合計100万くらい。人件費合計が500万程度になります。(分かりやすくするために、非常にシンプルにしています。)
- ③ 広告宣伝費
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コロナの影響で英会話スクールは極端に広告宣伝費を抑えている様です。コロナ前の典型的な英会話スクールだと以下のような広告宣伝を行います。
- 交通広告
- TVCM
- 雑誌・習い事情報誌・英語関係雑誌・ラジオ/テレビ講座テキスト
- ネット広告
この部分は英会話スクールを運営している会社ごとに考え方が違うので、スクールごとにかなり変動すると思います。また都心のスクールと地方のスクールでは費用が大きく異なります。都心でこれら全てかなり目につくように広告宣伝を行うと月間200-300万くらい掛かってしまうと思います。とりあえず、100万円程度で考えてみます。
- ④ その他
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通信費、光熱費、配送費、事務用品とか細々とした物ですが、社員が10名以上勤務していると20-30万くらいは掛かってしまいます。
ここまででシミュレーションすると、こんな感じになります。
賃料 | 2,000,000円 |
人件費 | 5,000,000円 |
広告宣伝費 | 1,000000円 |
雑費 | 300,000円 |
合計 | 8,300,000円 |
3. 収支
と言うことで、収入と支出を見てみます。
項目 | 金額 |
---|---|
収入 | 10,500,000円 |
支出 | 8,300,000円 |
収支 | 2,200,000円 |
良い感じですね。利益率20%なら、悪くないです。
と言いたいところですが、毎月こんなにうまくいくとは限りません。またスクール数が数十から数百になる他店舗展開しているスクールだとこれ以外にかかる費用がかなりあります。
- 本部経費(企業全体の人事・経理・総務などを行なっている部署)
- 教材開発費(オリジナルテキストをしようしている場合)
- 物件管理・設備管理など
- 採用経費(特に海外に採用オフィスを構えている場合)
- 広告宣伝費(企画・制作など)
会社の規模にもよりますが、スクール数が多くなるとこれらの費用が非常に大きくなってきます。これらの経費をスクール数でわり、各校に振り分けていきます。計算を分かりやすくするために、1校あたり120万円だとすると、この様になります。上記をまとめて、本部経費と名付けます。
スクール収支 | 2,200,000円 |
本部経費 | 1,200,000円 |
営業利益 | 1,000,000円 |
年間授業料30万円、入学金3万円、テキスト代2万円全て計算してこんなこんな感じになります。どこかで割引きするとかなり厳しくなります。また、新規入会数が月間30人と言うのはかなり優秀なスクールになります。
なぜこんな説明をしているかと言うと、極端に料金が安いスクールはそれなりに理由がある場合が多いからです。その安い理由が、自分の優先順位的に気にならないのであれば良いのですが、優先順位が高い部分が理由になっている場合は、後で後悔することになることが多い様です。
3. 比較する場合のヒント
それでは、最初に説明した比較ポイントを検討する場合のヒントを説明します。個人個人の優先順位や価値観の問題なので、「どれが正解」と言うようなものではありません。「自分にとって、何が大切なのか」を考える上でのヒントにしてください。
思いつくままに書き出しますが、後で思い出したら後日追加します。
- 年間契約先払い VS 月謝制
- 固定制 VS 予約制
- ネイティブ講師 VS 日本人講師
- プライベートレッスン VS グループレッスン
- オリジナルテキスト VS 市販のテキスト
私の方では、「どちらが良い」のような表現はしません。違いを説明しますので、「どちらが自分に合っているか」で考えてみてください。
- ① 年間契約先払い VS 月謝制
-
どちらにしても比較する場合は必ず正確な金額で計算してください。両者を比較するのであれば、入学金や1年間でかかるテキスト代の合計金額、年間契約で教育ローンを組んだ場合の金利含めてしっかりと計算することが一番大切です。1年契約のコースを36回払いにするような支払い方法は絶対にお勧めしません。
金銭上の比較をしっかりとした上で、両者の比較をしてみてください。手持ち資金があまりない場合、当然ながらお勧めは「月謝制」です。外国語学習は時間がかかります。出来るだけ早く開始した方が良いし、思い立った時にスタートするべきです。
反対に予算に問題がないのであれば、「年間契約」をお勧めします。私自身の両方のタイプのスクールを運営した経験がありますが、一般論的に「年間契約」の方が継続率が高くなります。やはり、外国語学習に「自分自身どれだけコミットしているのか」は結果に大きく影響してきます。
- ② 固定制 VS 予約制
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「固定制」とは入学時に毎週受講する曜日と時間を決めて、以降同じ曜日時間で受講するタイプです。「予約制」とはレッスン受講するたびに予約をしていくタイプです。それぞれの方の仕事などのスケジュールが異なりますので、続けやすい方を選べば良いのですが、「予約制」を選ぶ場合は、そのスクールで「本当に希望通りに予約し受講できるのか」を確かめた方が良いです。先ほどスクールの収支の話をしましたが、講師の人数や教室の数を考える時に「固定制」の場合は当然ながら在籍者のスケジュール通りに講師や教室を用意します。「予約制」の場合、予め「受講率」を想定して計算することになります。契約している受講者が全員出席する想定はしない可能性があります。ホテルや飛行機のオーバーブッキングの問題と同じです。今はネットの評判でもある程度わかると思うので予約が希望通り取れるかどうかはしっかりと確認したほうが良いでしょう。
語学学習の観点から考えると、「固定制」の方が継続率も受講率も上達度も高くなる様です。どんな人でも入学時のモチベーションを1年間持ち続けることは難しいと思います。「予約制」の場合、モチベーションが下がってくると一気に受講率が下がります。その結果、「上達実感が得られない」「レッスンがわからなくなった」などの理由でさらに足が遠のきがちです。外国語学習には継続が大切であると言うことを意識して比較すると良いでしょう。
でも、スクール側の立場からすると、「予約制」の方が圧倒的に売りやすいのです。簡単に勧められます。
- ③ ネイティブ講師 VS 日本人講師
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これに関してはかなり個人差がありますので、一般論になります。個人個人の優先順位とともに、「英会話スクールに何を求めるのか」によっても変わってきます。
例えば、「英語の勉強はある程度自分で出来る。英会話スクールに求めるのは実践の場だ」と言うタイプの方は外国人講師の方が良いでしょう。当然ながら、学習の目的は外国語で外国人とコミュニケーションを取るためだからです。
反対に「英語を身につけたいけどどうしたら良いかわからない。だからお金を払ってスクールに通って何とか話せるようにして欲しい」と言うタイプの方は日本人講師の方が良いでしょう。日本人講師の場合、自らの学習経験からその手法をよく理解し、また学習者の問題点を的確に把握し解決できるからです。
選べるのであれば、両方受けた方が良いですね。
- ④ プライベートレッスン VS グループレッスン
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これも個人差が出るので、一般論で説明します。
例えば、英語中級レベル以上で「自分で何を学習したいのか明確な人」の場合、プライベートレッスンが向いています。グループレッスンの場合、全員の満足度を上げる必要があるため、特定の1名の生徒だけの事を考えてレッスンをすることが出来ません。プライベートレッスンであれば、「自分が学習したいこと」を「自分の学習した方法」で学習することが出来ます。ただし、それを自分の力でしっかりと講師に伝える事が必要になります。
反対に「何となくプライベートレッスンの方が上達しそう」と言う感覚なら、グループレッスンの方が良いでしょう。プライベートレッスンは良くも悪くも「自分のペース」で学習します。長期間モチベーションを維持できて常にレッスンのために全力で予習復習する自信があれば良いのですが、大体において数ヶ月すると「手を抜き出し」ます。悲しい事に「人間は人の目がないと怠ける」ようです。グループレッスンの方が他の生徒の頑張り方や上達進捗状況が気になるので、「手を抜き」ません。
また、よほど下手な講師に当たらない限り、初心者の場合は「グループレッスンだと話す量が少ない」と言うことはありません。
- ⑤ オリジナルテキスト VS 市販のテキスト
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はっきり言ってどちらでも大差ありません。
一般的な特徴で言うと、「オリジナルテキスト」はそのスクールの生徒層である特定のタイプの日本人学習者に最適化してあります。ただし社員が制作するので、決してテキスト制作の専門家が作っているわけではありません。
反対に「市販の教材」は全世界の学習者を対象としているので、必ずしも日本人学習者に特化しているわけではありません。ただし、専門家が多くの開発時間と開発予算をかけて作っているので完成度の高いものになります。
と言っても、レッスンをするのはそのスクールの講師だし、学習者がどれだけしっかりとテキストを使い込むかによって結果が変わってきます。
なので、どちらでも大差ありません。
4. まとめ
あえて、英会話スクールのビジネスモデルを説明しながら、比較の方法を紹介しました。以下、英会話スクールを選ぶ場合のポイントをまとめます。
- 「英会話スクールに何を求めるのか」を明確にする。
- 自分にとっての優先順位を明確にする。
- 料金設定にはそれなりの理由がある。
- その上で、自分の直感を信じる
英会話スクールに入学するのは、「あくまでもスタート」です。上手く英会話スクールを利用して、自分にとって必要な英語力を身につけてください。